「定款変更が必要かも?」と思った時に押さえるべき点とは?

定款は、その会社の根本的なルールを規定しているものであり、会社を設立する時に、かならず作成するものです。しかし、その後、会社の成長や会社を取り巻く環境に変化によって、定款の内容も変更が必要になってくることあります。 では、「どんな場合に定款変更が必要なのか?」そして、「その手続きの方法」などをお伝えしていきます。

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どんな時に「定款変更」が必要なのか?

会社設立時に定めた定款の内容から変化があるのであれば、定款変更の手続きが必要となります。上記の通り、定款は会社の根本ルールを定めており、会社法で「何を書かなければいけないか、何を書くべきか」などが明確になっています。つまり、会社設立時には、会社法に基づいた定款を作成する必要があります。

会社設立時に作成されている定款に書かれている事は大きく3つに分けられます。

  • 定款に書かれていないと定款自体が無効になる事項(絶対的記載事項)
  • 定款に書かれていないと効力が発生しない事項(相対的記載事項)
  • 会社の任意で定款に書く事項(任意的記載事項)

の3つとなります。

絶対的記載事項

「絶対的記載事項」は、

  • 「事業目的」
  • 「商号」
  • 「本店所在地」
  • 「発行株式総数」です。

設立時は出資額や発起人名なども絶対的記載事項ですが、定款変更に関わる絶対的記載事項となると、上記の4つとなります。

よって、

  • 事業目的(どんな事業を行うかを記載)
  • 商号(企業名を記載)
  • 本店所在地(本店の住所を記載)
  •  発行株式総数(発行できる株式数の上限数を記載)

を変更する場合は、必ず登記が必要となります。

 「印刷業のみを事業としていた会社が、ホームページ作成事業に業種変更し、それをきっかけに社名変更と本社移転をする」場合

この場合は、

  • 「事業目的の変更」
  • 「商号の変更」
  • 「本店所在地の変更」

の登記を行うことになります。

上記のケースは、3つ同時に変更が起きていますが、一つだけでも変更が起きれば、定款変更を行うことになります。例えば、「事業目的も本店所在地も変更がないが、会社名の変更だけある場合」でも登記することになります。

「ホームページ作成事業」が目的の会社が、業種変更ではなく、追加業種として派遣業も行う場合

「ホームページ作成事業」と「派遣業」も登記することになります。 「事業目的の変更」は、既存の目的からの変更だけでなく、既存の目的に新しい事業目的が加われば「事業目的の変更の登記」は必要となります。

相対的記載事項

「相対的記載事項」は広範囲に渡るのと、大企業のみにしか関係のない事項もありますので、ここでは、一般的な「相対的記載事項」を上げておきます。

  • 変態設立事項(現物出資に関する定め)
  • 株式の譲渡制限に関する定め
  • 株主総会、取締役会及び監査役会招集通知期間短縮
  • 取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人及び委員会の設置
  • 取締役、会計参与、監査役、執行役及び会計監査人の責任免除
  • 取締役、監査役の任期の短縮または伸長
  • 株式発行に関する定め  など。

株式の譲渡制限に関する定め

株主が株式を勝手に売買出来ないようにするために、定款に「譲渡については株主総会の承認を必要とする」と定めることが出来ます。このような譲渡制限がない会社が譲渡制限を設けようとする場合や、逆に譲渡制限を無くそうとする場合には定款変更をして、登記が必要となります。

取締役の任期

通常、取締役の任期は2年ですが、上記の譲渡制限を付けた会社であれば、10年までは伸長することが出来ます。この場合も、定款変更及び登記が必要となります。逆に、10年などに設定されていたものを短縮する場合も定款変更呼び登記が必要となります。

このように、「相対的記載事項」は、会社設立時にどのように定款を作成しているかによって、変更の内容が変わります。よって、定款変更が必要かなと思ったら、まずは会社設立時の定款がどのような記載になっているかを確認することから始めることになります。 定款変更ですので、株主総会決議が必要であり、その効力を発生させるためにも、登記が必要なります。

任意的記載事項

任意的記載事項は、絶対的記載事項でも、相対的記載事項でもない事項です。言い換えれば、定款に記載が義務付けられておらず、さらに定款に記載がなくても効力の有無は関係のないない事項です。任意的記載事項は各社それぞれですので、あくまで例として、以下のような事項があげられます。

  • 決算月(営業年度)
  • 株主総会の議長
  • 役員の人数
  • 社名の英語表記  など。

任意的記載事項を定款に記載するのは「その会社にとっては重要な事項」を明確にするためです。よって、会社にごとに任意的記載事項は全く違うことになります。任意的記載事項は、変更時の登記は必要がない事項がほとんどですが、株主総会決議は必ず必要となります。

定款変更をしましょう

次に、実際に定款を変更する手続きを見ていきましょう。定款変更は、単に文章を変更するだけでなく、株主総会決議や登記などが必要となります。よって、定款変更をどのようにしていけば良いのかを詳しく見ていきましょう。

株主総会の開催と決議

株主総会を開催するには、準備、送付などを含めて時間がかかります

定款変更するには、株主総会を開催して変更承認の決議が必要となります。 ここで注意が必要なのは、株主総会を開催する手続きです。準備や送付などを含めて株主総会開催には時間がかかる点です。

例えば、経営者が100%保有している場合など株主が経営幹部や親族であれば、すぐにでも株主総会を開催できるかもしれません。しかし、株主が部外者である場合、会社法上、原則2週間前までに招集通知(条件によっては1週間に短縮可)を送付する必要があります。

株主総会を開催するには、準備、送付などを含めて時間がかかることを忘れないようにしましょう。

決議要件があります

株主総会では、定款変更の決議を行いますが、決議要件があります。定款は、会社の根本的なルールを決めたものですので、株主総会決議も、普通決議ではなく、原則、特別決議が決議要件となります。 つまり、出席株主の議決権の過半数では足りず、議決権の過半数をもつ株主が出席した株主総会で出席株主の議決権の3分の2以上が必要です。

株主総会の開催でも経営者関係以外の株主の存在は注意点でしたが、ここでも、経営者の意思に反するような株主がいると、そもそも定款変更が出来ないということになりますので、株主の持株比率は重要です。

後々の定款変更を見込んで、起業時や増資時などに持株比率を維持する資本政策は検討しておくべきです。 無事に、出席株主の3分の2以上の賛成があり、株主総会決議を受けたら、次に議事録を作成します。この議事録が、定款を変更したこと示す書類になりますので、必須です。

法務局への定款変更の登記に必要な3つのもの

定款変更に関する株主総会を行い、定款変更の承認を得て、それを議事録に残したら、法務局への定款変更の登記を行います。絶対的記載事項に関する定款変更の場合、登記を怠ると過料を科せられますので、必ず登記が必要となります。

また、相対的記載事項などの定款変更の場合は、登記しておかないと不利益を被ることもありますので、速やかに登記を行う必要があります。 なお、会社設立時の作成した定款は、登記前に公証役場にて認証が必要ですが、定款変更時には必要ありません。

法務局への登記する時に必要なものとして、

  1. 原始定款  会社設立時に作成した定款の事
  2. 株主総会議事録 前節で作成した定款変更に関する株主総会で決議した内容が記載されている議事録の事
  3. 登録免許税

例えば、

  • 事業目的の変更の場合 3万円
  • 商号変更の場合、3万円
  • 本社移転(管轄内)の場合、3万円
  • 本社移転(管轄外)の場合、6万円

などの登録免許税が必要となります。

なお、定款変更の登記は、新しい定款を作り直して持参するのではなく、「原始定款」と「株主総会議事録」で行うことになります。

定款と議事録の保管

登記が終わったら、「原始定款」と「株主総会議事録」を必ず保管しておきましょう。

定款変更は、一度したら二度としないというものではありません。逆を返せば、頻繁に行うものでもありません。次の定款変更は、数年後か数十年後か分かりません。

次の定款変更でも、これらの書類は必要となりますので、しっかりとした保管を行う必要があります。

登記の必要のない定款変更の流れ

登記の必要のない代表的な定款変更の流れを見ていきましょう。

代表的なものとして、「決算月の変更」があります。 「決算月」によって企業の決算書は大きく変わってしまいます。「決算月」は任意的記載事項ですが、ほとんどの会社は定款に記載しています。「決算月」が定款に記載されている場合は、変更する際に定款変更が必要となるのです。

「決算月」は、任意的記載事項ですので、登記は必要ありませんが、税務上は、決算月(決算期間)は重要ですので、税務署への届け出は必要となります。

なお、どんな時に決算月を変更するかと言うと、

  • M&Aをした関係上、今まで別々の会社だったので決算月が違ったが、今後は、親会社と子会社の決算月を合わせたい
  • 会社の繁忙期に決算が重なるので変更したい
  • 同業他社との比較しやすいように、決算を合わせる
  • 税理士との関係上、他社の決算が集中する時期をずらす

がなどの理由が考えられます。

なお、決算月は何月にでも変更はできますが、決算期間が1年を超えることはできない点には注意が必要です。

例えば、1月~12月決算の会社が翌年の2月決算へ伸ばし14か月間の会計期間にするような変更(決算期間が12カ月を超えるような変更)はできません。この場合は、12月に一旦、12月決算をした後、2月に変更することになります。

では、登記の必要のない定款変更の流れ(決算月の変更)を見ていきます。

決算月変更の場合(ステップ1)株主総会の開催および定款変更の決議

登記が必要のない定款変更でも、定款変更を行う場合は、株主総会決議が必要となります。 よって、登記が必要な定款変更同様に、株主総会の招集を行い、株主総会を開催することから始まります。

3分の2以上の賛成が必要なのも同様です。株主総会決議をしたら、その議事録を作成しておきます。

決算月変更の場合(ステップ2)税務署に届け出

税務署に届け出を行います。「異動届出書」と株主総会の議事録を提出するだけです。登録免許税などの費用も特には掛かりません。

過去に遡っての決算月の変更は受け付けられない

例えば、12月決算の会社が、12月時点で、今年の10月までの決算に変更したいとしても受け付けられません。この場合は、今年の10月末のより前に株主総会決議をして届け出をするか、来年の10月まで待つしかありません。

決算月を変更する場合は、前もって株主総会および変更の届をする必要があります。

決算月変更の場合(ステップ3)定款変更後(保管と告知)

定款変更後、登記の必要のある定款変更同様に株主総会決議を保管しておくことは必要です。

決算月の変更を関係者に伝える

登記の必要のない定款変更の場合 登記をしていないということは、定款変更があったことは会社外の人は知るすべがありません。内容によっては、会社外に伝える必要もないのですが、決算月の変更については、関係者には伝える方が良い場合があります。

例えば、銀行や所要取引先などです。銀行借入がある場合、決算書に基づき融資判断を行いますので、決算月(決算期間)の変更は重要なことだからです。また、主要取引においても、普段からの決算書を提出している先などには、変更した旨を伝えておくほうが良いです。

定款変更はないが登記が必要な事項

定款変更はないが登記が必要な事項もあります。 例えば、役員の変更(新任、重任、退任、辞任など)です。役員の名前は定款に記載はありませんので、定款変更はありませんが、登記は必要となります。

定款変更がないということは株主総会の特別決議は必要ありません。しかし、役員の変更は、株主総会決議事項ですので株主総会議事録は必要となります。

各項目の定款変更する時の注意点

次に、定款変更の中で、項目ごとに注意点(抑えるべき点)を見ていきましょう。

「事業目的を変更・追加する時」に押さえるべき点とは?

定款の事業目的を変更・追加するということは、設立時の事業目的と変更があったということです。変更を考える前に、定款に事業目的がどのように書かれているのかを確認する必要があります。その時に押さえるべきポイントは2つあります。

事業目的の変更を変更する必要がない

事業目的の中に、「○○に附帯する一切の事業」と言う項目があると、ある程度までは、事業目的のカバーが出来ているからです。

「全く違う事業を行う場合」や「事業目的に記載していない事業で、許認可のため定款の提出が必要な場合」などは、事業目的の変更が必要となる

例えば、

  • 古物商
  • 建設業
  • 派遣業
  • 宅地建物取引業
  • 飲食業
  •  旅行業

などでは、許認可を取るときに、その業種に応じた定款の事業目的の記載が必要となります。

これらの場合は、付随業務で対応できず、事業目的に明確な記載がないと許認可が下りない可能性もあり、定款変更により、事業目的を変更や追加を行う必要が出てきます。

「商号変更の時」に押さえるべき点とは?

似た商号

商号変更する場合に、「似た商号は付けられなかったような気がする」と思う方もいるかもしれません。 それは、会社法以前(商法の時)には、同一市町村内で、同一の事業で、同一の商号は付けることはできませんでした。当然、登記も出来ませんでした。

でも、会社法の施行により、現在では「同一住所で同一の商号は付けられない」ことになりました。幾分か会社法の方が緩和されたことになります。 しかし、ここで注意が必要なのは、顧客をだます目的や不正な競争をする目的で、似た商号を付けることは、商法時代でも会社法時代でも他の法律などで規制はされています。よって、商号変更の登記はできたとしても、他社と類似する商号は気を付けるべきではあります。

このように類似した商号があるかないかを調査することは必要です。

商号調査の方法として、

  • 法務局に行って調べる方法
  • インターネットで調べる方法

があります。

インターネットで調べる場合は、法務省の「オンライン登記情報検索サービス」と言う検索サービスで調べることが出来ます。

登録免許税

必要な費用として、商号変更する場合は、3万円の登録免許税がかかります。

その他費用

商号変更する場合は、登録免許税だけが費用ではありません。会社名を変えるわけですから、会社名を記載しているものを全部変更する必要が出てきます。

例えば、

  • 会社の印鑑を変える
  • 会社パンフレットを変える
  •  看板、封筒のロゴ、ホームページなどを変える

様々な変更をすることになります。

ブランド

今まで培ったブランド力もゼロになってしまう可能性があります。

このように、商号変更については、定款を単に変えるだけでなく、様々な影響を検討してから決定する必要があります。

「本店所在地の変更の時」に押さえるべき点とは?

設立時の定款に、どのように記載されているかを確認

本店所在地は絶対的記載事項ですが、書き方の幅があるからです。最小行政区画(東京は区、それ以外は市町村)まででも良いとされていますが、番地まで詳細に書く場合で書く場合もあります。

特に拘りなどがなければ、本店所在地は最小行政区画で記載しておいたほうが良い

本店所在地が遠方へ変更する場合(最小行政区画外への変更する場合)は、どちらでも定款変更を伴います。しかし、同じ最小行政区画内の移転であれば、手続きが変わるからです。

例えば、本店所在地を「大阪府大阪市」などと最小行政区画で定款に記載してあれば、大阪府大阪市内での移転の場合、定款の変更はいりません。(登記は必要ですが、株主総会決議の必要はありません。)

しかし、「○○番地」など番地まで定款に記載してある場合、大阪市内の移転でも番地は変わりますので、定款変更が必要となります。(定款変更が必要と言うことは、株主総会決議が必要と言うことにもなります。)

その他の定款変更時の押さえるべき点とは?

発行株主総数の変更の場合

絶対的記載事項には、発行可能株式総数もあります。発行可能株式総数とは、すでに発行している株式数の事ではなく、発行できる株式数の上限のことになります。

例えば、定款で発行株式総数を1000株と定めている場合、既存の発行数が300株であれば、残り700株しか発行できないということになります。普段は、それほど気にしないかもしれませんが、新株発行を伴う資金調達をしたい場合などは、発行可能株式総数がどのくらいに設定されているのか、定款変更はすべきかなどを前もって確認しておく必要があります。

一つの変更が他にも絡む場合

例えば、株式の譲渡制限をしている会社ですと、取締役会を設置していなくても良いことになります。 この会社で、株式の譲渡制限を無くす定款変更をしたら、取締役会の設置する義務が発生します。

(つまり、取締役会を設置する定款変更などが発生する可能性があります。)

このような点などに注意しながら、定款変更をしていきましょう。

まとめ

上記で見てきたように、定款変更をしていくためには、手続きをしっかりするのは当然のことながら、重要なのは、そもそも設立時の定款(または前回、定款変更した定款)に

  • 「何が書かれているか」
  • 「どのようなことが書かれているのか」

を把握することです。

そのためには、「原始定款」及び「過去に定款変更をした時の株主総会議事録」がしっかりと保管されている必要があります。それらがしっかりと保管されていれば、定款変更が必要となりそうな事項が出てきた時に、それらの内容を把握して、必要な変更が行えることになります。

ぜひ、定款変更をする時には、「まずは現状の定款の把握」をしてみてください。

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