NPS(ネットプロモータースコア)とは?計算方法と顧客ロイヤルティ向上の実践

NPS向上ガイド

「あなたの会社の製品を友人に勧めたいですか?」たった1つの質問で、顧客ロイヤルティと将来の売上成長を予測できるNPSをご存知ですか?

多くの企業が顧客満足度を測定していますが、実際には満足している顧客が他社に流出したり、良い評価をつけても口コミで広めてくれなかったりと、表面的な満足度では真のロイヤルティを捉えきれていません。複雑なアンケートは回答率が低く、得られたデータも活用しづらいのが現状です。

この記事では、世界中の企業が採用するNPS(Net Promoter Score / ネットプロモータースコア)の基本概念から実践的な活用方法まで、わかりやすく解説します。0-10点の評価を推奨者・中立者・批判者に分類する方法、正確な計算式、業界別ベンチマーク、そして顧客ロイヤルティを向上させる具体的なアクションを身につけることができます。

この記事で学べること

  • NPSの基本概念と推奨者・中立者・批判者の分類基準
  • NPSスコアの正確な計算方法と評価の見方
  • 業界別のNPSベンチマークと自社スコアの位置づけ
  • NPSを活用した顧客ロイヤルティ向上の実践手法

用語の定義

NPS(Net Promoter Score / ネットプロモータースコア) (Net Promoter Score)

「この製品・サービスを友人や同僚に勧める可能性はどのくらいですか?」という1つの質問で顧客ロイヤルティを測定し、推奨者の割合から批判者の割合を引いて算出する指標

NPSは、2003年にベイン・アンド・カンパニーのフレッド・ライクヘルドが開発した顧客ロイヤルティ指標です。0から10までの11段階で「この製品・サービスを友人や同僚に勧める可能性」を評価してもらい、回答を推奨者(9-10点)、中立者(7-8点)、批判者(0-6点)の3つに分類します。NPSスコアは「推奨者の割合(%)- 批判者の割合(%)」で計算され、-100から+100の範囲で表されます。シンプルで理解しやすく、業界を超えて比較できるため、AppleやAmazon、Netflixなど世界中の企業が採用しています。NPSが高い企業は、口コミによる新規顧客獲得が多く、既存顧客の継続率も高いため、持続的な成長を実現できることが実証されています。

NPSは健康診断のようなものです。「友人に勧めるか」という1つの質問は、体温測定のようにシンプルですが、顧客との関係性全体の健康状態を示す重要な指標です。定期的に測定することで、改善施策の効果を確認し、問題を早期に発見できます。

NPSは顧客体験(CX)の総合的な評価指標として機能し、CSAT(満足度)やCES(顧客努力指標)などの他の指標と組み合わせることで、より深い洞察が得られます。NPSで顧客の全体的なロイヤルティを把握し、CSATで特定の接点での満足度を測定、CESで顧客の負担を評価することで、包括的な顧客体験改善が可能になります。また、NPSはカスタマーサクセス活動の成果指標としても活用され、高いNPSスコアはLTV(顧客生涯価値)の向上と低いチャーンレート(解約率)につながることが実証されています。

NPSの実践的な活用方法

NPSアンケートの実施と正確な計算

NPSを正確に測定するには、質問の仕方とタイミング、そして計算方法が重要です。一貫した方法で定期的に測定することで、時系列での変化を追跡できます。

  1. 「0-10点で、当社の製品・サービスを友人や同僚に勧める可能性はどのくらいですか?」と質問する
  2. 0-6点を批判者(Detractors)、7-8点を中立者(Passives)、9-10点を推奨者(Promoters)に分類する
  3. 各カテゴリーの回答者数を集計し、全回答者に対する割合を計算する
  4. NPS = (推奨者の割合% - 批判者の割合%)で算出する(例:推奨者40%、批判者20%なら NPS = 20)
  5. フォローアップ質問「その評価をつけた理由を教えてください」で定性的なフィードバックを収集する
  6. 月次または四半期ごとに定期測定し、トレンドを追跡する

使用場面: 製品購入後、サービス利用後、カスタマーサポート対応後など、顧客が一定の体験をした後に実施します。タイミングが早すぎると正確な評価が得られないため、顧客が製品の価値を十分に体験した後(例:SaaS製品なら利用開始から30日後)が適切です。

推奨者・中立者・批判者別のフォローアップ戦略

NPSスコアだけでなく、各セグメントに対して適切なアクションを取ることが、顧客ロイヤルティ向上の鍵です。それぞれの顧客グループに最適化されたアプローチを実施します。

  1. 推奨者(9-10点)には感謝のメッセージを送り、レビューや紹介を依頼する
  2. 推奨者にリファラルプログラムやアンバサダープログラムへの参加を促す
  3. 中立者(7-8点)には「何があれば10点をつけていただけますか?」と追加質問する
  4. 中立者の具体的な改善要望を製品・サービス改善のロードマップに反映する
  5. 批判者(0-6点)には24時間以内に個別フォローアップし、問題を解決する
  6. 批判者からの学びを全社で共有し、同様の問題の再発を防ぐ仕組みを構築する

使用場面: NPSアンケート回答後、すぐにセグメント別のフォローアップを開始します。特に批判者へのフォローアップは迅速に行うことが重要で、適切に対応することで批判者を推奨者に転換できる可能性があります(クローズドループ・フィードバック)。

業界ベンチマークとの比較と改善目標設定

自社のNPSスコアを業界平均と比較することで、競合に対する相対的な位置づけを理解し、現実的な改善目標を設定できます。

  1. 自社の業界・セクターの平均NPSスコアをリサーチする(以下は2024年の業界別平均例)
  2. テクノロジー・SaaS業界:30-40、小売・EC業界:20-40、金融・保険業界:20-30、航空業界:0-20
  3. 自社のスコアが業界平均より高いか低いかを評価する
  4. 業界トップ企業(Apple: 72、Tesla: 97、Netflix: 68など)のスコアを参考にする
  5. 四半期ごとに5-10点の改善を目標に設定し、具体的な施策を実行する
  6. 改善施策の効果を次回測定で検証し、PDCAサイクルを回す

使用場面: 初回NPS測定後、自社の位置づけを理解するために実施します。その後は定期的に測定し、業界平均の変化も追跡します。NPSは絶対値だけでなく、トレンドの方向性(上昇・下降)が重要な指標となります。

NPSドライバー分析による改善優先順位の特定

NPSスコアに最も影響を与える要因(ドライバー)を特定することで、限られたリソースを最も効果的な改善施策に集中できます。

  1. NPSアンケートに加えて、製品機能、価格、サポート、使いやすさなど複数の要素の評価も収集する
  2. 統計分析(回帰分析など)でNPSスコアに最も影響する要素を特定する
  3. 影響度が高く、現在のスコアが低い要素を優先改善項目とする
  4. 改善施策を実行し、次回測定でその要素のスコアとNPSスコアの変化を確認する
  5. 継続的にドライバー分析を行い、改善の効果を定量的に評価する
  6. 部門別(営業、サポート、製品開発など)にNPSドライバーを共有し、全社で取り組む

使用場面: NPSの定期測定が軌道に乗った後、より効果的な改善施策を特定したい段階で実施します。特に複数の改善候補があり、どれを優先すべきか迷う場合に有効です。

部門別・製品別NPSで具体的な課題を特定

全社NPSだけでなく、部門別や製品別にNPSを測定することで、具体的な改善ポイントを特定し、責任の所在を明確にできます。

  1. 営業、カスタマーサポート、製品、配送など部門ごとにNPSを測定する
  2. 複数製品を持つ場合、製品ごとにNPSを測定し比較する
  3. 顧客セグメント(企業規模、業界、利用期間など)別にNPSを分析する
  4. NPSが特に低いセグメントや部門を特定し、根本原因を調査する
  5. 各部門に改善目標を設定し、定期的に進捗をレビューする
  6. NPSを部門のKPIやパフォーマンス評価に組み込み、改善へのモチベーションを高める

使用場面: 全社NPSの測定が定着し、より詳細な分析が必要になった段階で実施します。特に組織が大きくなり、顧客体験の責任が複数部門に分散している場合に効果的です。

NPSを活用する際の注意点

NPSスコアだけに固執しない

NPSの数値を上げることが目的化すると、本質的な顧客体験改善から離れてしまいます。スコアは手段であり、真の目的は顧客ロイヤルティの向上です。

注意点

NPSスコアを操作するため、推奨者になりそうな顧客だけにアンケートを送ったり、低評価の顧客を無視したりすることで、実態と乖離したスコアになります。また、スコア向上のプレッシャーで従業員が不適切な行動を取る可能性もあります。

解決策

NPSは顧客体験改善の「健康診断」と位置づけ、スコアの背後にある顧客の声に耳を傾けましょう。フォローアップ質問で得られた定性的なフィードバックを丁寧に分析し、具体的な改善アクションにつなげることが重要です。また、アンケートは全顧客にランダムかつ公平に送信し、偏りのないデータを収集します。

文化的な評価の違いを考慮する

NPSの評価は文化によって大きく異なります。例えば、日本では控えめな評価をする傾向があり、欧米と同じ基準で比較すると誤解を招きます。

注意点

日本の顧客は満足していても7-8点をつけることが多く、グローバル基準と比較すると不当に低いスコアになります。逆に、アメリカなどでは気軽に10点をつける傾向があり、同じ製品でも地域によってスコアが大きく変動します。

解決策

国際的に事業を展開している場合、地域ごとにNPSを測定し、それぞれの地域内でのトレンドを追跡することが重要です。異なる国のスコアを直接比較するのではなく、各地域での時系列変化や業界内での相対的な位置づけに注目しましょう。また、文化に合わせて評価スケールの説明を調整することも効果的です。

批判者へのフォローアップを怠らない

批判者(0-6点)からのフィードバックは聞きたくないものですが、実はこれが最も価値のある改善のヒントです。批判者を無視すると、問題は悪化し続けます。

注意点

批判者を無視すると、彼らは悪い口コミを広め、他の潜在顧客の獲得を妨げます。また、同じ問題が解決されないまま残り、今後の顧客も同様に不満を抱くことになります。

解決策

批判者には24時間以内に個別にコンタクトを取り、問題を理解し解決する努力を見せましょう。適切に対応することで、批判者を推奨者に転換できることも多くあります(回復のパラドックス)。また、批判者からの学びを製品改善やプロセス改善に活かし、根本原因を解消することが重要です。

中立者(7-8点)を見過ごさない

推奨者と批判者に注目しがちですが、中立者は最も多く、かつ推奨者に転換できる可能性が高いグループです。彼らを見過ごすのは大きな機会損失です。

注意点

中立者は現状に不満はないものの、競合に簡単に乗り換える可能性があります。また、彼らの意見を聞かないことで、推奨者になるために何が必要かを理解できません。

解決策

中立者に「何があれば10点をつけていただけますか?」と具体的に質問しましょう。この回答から、製品やサービスに欠けている重要な要素が見えてきます。中立者を推奨者に転換することで、NPSスコアを効率的に改善できます。

NPSだけでなく他の指標と組み合わせる

NPSは強力な指標ですが、顧客体験の全ての側面を捉えるわけではありません。CSATやCES、チャーンレートなど他の指標と組み合わせることで、より包括的な理解が得られます。

注意点

NPSだけに頼ると、特定の問題点や改善機会を見逃す可能性があります。例えば、NPSは高くても特定の機能への不満が大きい場合、その情報を見逃してしまいます。

解決策

NPSで全体的なロイヤルティを測定し、CSAT(顧客満足度)で特定の接点での満足度を、CES(顧客努力指標)で体験の容易さを評価しましょう。これらを組み合わせることで、「どこに問題があり、何を改善すべきか」が明確になります。また、NPSと売上成長、チャーンレート、LTVなどビジネス指標との相関も分析し、NPSの価値を経営層に示すことも重要です。

NPS、CSAT、CES、顧客満足度の違いと使い分け

顧客体験を測定する指標は複数存在し、それぞれ異なる側面を評価します。NPSは顧客ロイヤルティ、CSATは満足度、CESは顧客の負担を測定します。これらを組み合わせることで、より包括的な顧客理解が可能になります。

指標測定する内容質問例スコア範囲主な用途
NPS顧客ロイヤルティ・推奨意向この製品を友人に勧める可能性は?-100 〜 +100全体的な顧客関係の健康度測定
CSAT特定の体験への満足度このサポート対応に満足しましたか?1〜5点 または 0〜100%特定の接点やサービスの評価
CES顧客の努力・負担の度合い問題解決にどれくらい手間がかかりましたか?1〜7点(低いほど良い)プロセスの改善と簡素化
顧客満足度(総合)全体的な満足度当社のサービス全体に満足していますか?1〜5点 または 0〜100%総合的な満足度の追跡
チャーンレート解約・離脱率(測定のみ、質問なし)0〜100%(低いほど良い)顧客維持率とビジネスの健全性

💡 ヒント: NPSは将来の行動予測に優れ、CSATは現在の満足度を、CESは体験の容易さを測定します。最も効果的なのは、これらを組み合わせて多角的に顧客体験を評価することです。例えば、NPSが低い顧客グループのCESを分析することで、改善すべき具体的なポイントが見えてきます。

まとめ

  • NPSは「友人に勧める可能性」を0-10点で評価し、推奨者の割合から批判者の割合を引いた指標
  • 推奨者(9-10点)、中立者(7-8点)、批判者(0-6点)の3分類でセグメント別戦略を立てる
  • NPSスコアは-100から+100の範囲で、業界平均と比較して自社の位置づけを把握する
  • スコアだけでなく、フォローアップ質問の定性的フィードバックから具体的な改善点を特定
  • 推奨者には感謝とリファラル依頼、中立者には改善提案の収集、批判者には迅速な問題解決
  • CSAT、CESなど他の指標と組み合わせ、多角的に顧客体験を評価することが重要

まずは簡単なNPSアンケートを作成し、100人の顧客に送信してみましょう。「0-10点で、当社の製品を友人に勧める可能性はどのくらいですか?」と「その理由を教えてください」の2つの質問から始めるだけで、貴重な洞察が得られます。

NPSの理解を深めるには、フレッド・ライクヘルドの著書『The Ultimate Question 2.0』を読むことをおすすめします。また、実際にNPSを測定し、批判者へのフォローアップと中立者を推奨者に転換する施策を実践することで、顧客ロイヤルティ向上の実感が得られます。定期的な測定とアクションのサイクルを回すことが、NPSを活かす鍵です。

よくある質問

Q: 良いNPSスコアとは具体的に何点以上ですか?

A: 一般的に、NPSが0以上なら推奨者が批判者より多く「良い」、30以上なら「優秀」、50以上なら「非常に優秀」、70以上なら「世界クラス」とされます。ただし、業界によって平均が異なるため、自社の業界ベンチマークと比較することが重要です。例えば、テクノロジー業界の平均は30-40、小売業は20-40程度です。絶対値よりも、時系列でのトレンド(上昇・下降)が重要な指標となります。

Q: NPSアンケートはどのくらいの頻度で実施すべきですか?

A: 顧客との関係性やビジネスモデルによって異なります。トランザクショナルNPS(取引直後の測定)は、購入後やサポート対応後など特定のイベント後に実施します。リレーショナルNPS(関係性の測定)は、四半期ごとまたは半年ごとに定期的に実施するのが一般的です。ただし、同じ顧客に頻繁にアンケートを送ると回答率が下がるため、年に2-4回程度が適切です。

Q: なぜ9-10点だけが推奨者で、7-8点は中立者なのですか?

A: 研究により、9-10点をつけた顧客だけが実際に積極的に口コミを広める行動を取ることがわかっています。7-8点の顧客は満足しているものの、積極的に推奨する可能性は低く、競合に簡単に乗り換える傾向があります。0-6点を批判者とするのは、7点未満の評価をした顧客が否定的な口コミを広める可能性が高いためです。この分類は、膨大なデータ分析に基づいて最適化されています。

Q: NPSとCSAT(顧客満足度)はどう違いますか?使い分けは?

A: NPSは「友人に勧めるか」という将来の行動を予測する指標で、全体的なロイヤルティを測定します。CSATは「この体験に満足しましたか」という現在の満足度を測る指標です。NPSは企業との長期的な関係性、CSATは特定の接点(サポート対応、購入体験など)の評価に適しています。最も効果的なのは、NPSで全体的なロイヤルティを追跡し、CSATで特定の改善ポイントを特定する組み合わせです。

Q: NPSが低い原因をどうやって特定すればいいですか?

A: フォローアップ質問「その評価をつけた理由を教えてください」の回答を丁寧に分析することが第一歩です。批判者と中立者のコメントから、共通のテーマやパターンを見つけます。また、NPSドライバー分析を実施し、製品機能、価格、サポート品質、使いやすさなど複数の要素のどれがNPSに最も影響しているかを統計的に特定します。さらに、NPSが特に低い顧客セグメントに直接インタビューすることで、深い洞察が得られます。

Q: 批判者(0-6点)を推奨者(9-10点)に転換することは可能ですか?

A: はい、可能です。実際、適切に対応することで批判者を推奨者に転換できるケースは多くあります(「回復のパラドックス」)。鍵は迅速で誠実な対応です。批判者からのフィードバックを受け取ったら24時間以内に個別にコンタクトし、問題を理解し、解決策を提示します。問題が解決され、企業が真剣に対応してくれたと感じると、顧客は以前よりも強いロイヤルティを持つようになることがあります。