リテンションレート(継続率)とは?SaaS企業の成長を左右する重要指標を徹底解説 | BizHack(ビズハック)

リテンションレート徹底解説

リテンションレートとチャーンレートの違いは何か?自社のリテンションレートは業界平均と比べて高いのか低いのか?

多くのSaaS企業が顧客獲得に注力する一方で、既存顧客の維持という最も重要な要素を見落としています。リテンションレートを正しく理解し、改善することが、持続的な成長への近道です。

本記事では、リテンションレートの定義から計算方法、チャーンレートとの関係、業界別ベンチマーク、具体的な改善施策まで、実務で即活用できる知識を徹底解説します。読了後には、自社のリテンションレートを正確に測定し、改善するための具体的なアクションを起こせるようになります。

この記事で学べること

  • リテンションレートとチャーンレートの違いと使い分け
  • 自社のリテンションレートを正確に計算する方法
  • 業界別ベンチマークと自社の立ち位置
  • リテンションレートを向上させる具体的な施策
  • 顧客リテンションと収益リテンションの使い分け方

用語の定義

リテンションレート(Retention Rate / 継続率)

一定期間内に顧客がサービスを使い続けた割合を示す指標。SaaS企業において顧客維持の健全性を測る最重要KPIの1つで、チャーンレート(解約率)と表裏一体の関係にある

リテンションレートは、SaaS企業の成長戦略において最も注視すべき指標です。新規顧客獲得コストが既存顧客維持コストの5〜7倍かかることを考えると、高いリテンションレートを維持することが効率的な成長の鍵となります。 具体的な計算方法は、期末継続顧客数を期初顧客数で割り、100を掛けて算出します。この際、期間中に新規獲得した顧客は計算に含めないことが重要です。例えば、月初100社、月末110社(既存95社 + 新規15社)の場合、リテンションレートは95%となります。 リテンションレートの業界ベンチマークは、ターゲット市場によって大きく異なります。エンタープライズ向けSaaSでは月次95%以上(年次80%以上)、ミッドマーケット向けでは月次92〜95%、SMB向けでは月次85〜92%が標準的な水準です。自社のビジネスモデルに応じた適切な目標設定が重要です。 また、リテンションレートの改善には、オンボーディング最適化、継続的な価値提供、解約リスク顧客の早期発見と介入、セグメント別戦略の展開、顧客フィードバックの活用という5つの主要な戦略が効果的です。特に、サービス利用開始後の最初の30〜90日間のオンボーディング期間が、長期的なリテンションを大きく左右します。

リテンションレートとチャーンレート(解約率)は表裏一体の関係にあり、合計すると100%になります。リテンションレートが高いほど、顧客生涯価値(LTV)が向上し、長期的な収益性が改善します。SaaS企業では、カスタマーサクセスチームがリテンションレート向上を担当し、オンボーディング最適化、プロダクト改善、顧客エンゲージメント向上などの施策を実施します。リテンションレートとMRR(月次経常収益)、NRR(ネットレベニューリテンション)を組み合わせて分析することで、事業の持続可能性と成長ポテンシャルを総合的に評価できます。

リテンションレートの実務活用法

正確なリテンションレートの計算方法

リテンションレートを正確に計算するための基本的な手順と注意点を解説します。期間中に新規獲得した顧客を分母・分子に含めないことが重要なポイントです。

  1. 期初の顧客数を記録する
  2. 期間中の新規獲得顧客数を別途記録する
  3. 期末の継続顧客数を確認する(新規顧客を除く)
  4. カスタマーリテンションレート = 期末継続顧客数 ÷ 期初顧客数 × 100 を計算する
  5. レベニューリテンションレート(GRR)も同様に計算する
  6. 計算結果を業界ベンチマークと比較する

使用場面: 月次または四半期ごとにリテンションレートを計算し、継続的にモニタリングすることが重要です。特に新規施策を実施した後や、市場環境が変化した際には、リテンションレートの変化を注意深く観察する必要があります。

コホート分析によるリテンション評価

獲得時期別(コホート別)にリテンションレートを追跡することで、より深い洞察を得て、施策効果を評価します。

  1. 獲得月ごとに顧客をグループ化する(2024年1月獲得、2月獲得など)
  2. 各コホートの1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後、12ヶ月後のリテンションレートを計算する
  3. コホート間の比較で、改善・悪化トレンドを把握する
  4. 初期定着率(1〜3ヶ月)と長期定着率(6〜12ヶ月)を分析する
  5. セグメント別(エンタープライズ vs SMB、業種別など)の差異を確認する
  6. リテンションカーブの形状を評価し、PMF(プロダクトマーケットフィット)の状態を判断する

使用場面: 新しい施策を実施した際の効果測定、セグメント別の定着率の違いの把握、長期的なリテンション改善トレンドの確認に活用します。健全なSaaSのリテンションカーブは初期に急降下した後、徐々に平坦になり、12ヶ月後に70〜80%以上のリテンションを維持できることが理想です。

リテンションレートの目標設定

自社のビジネスモデル、ターゲット市場、成長ステージに応じた適切なリテンションレート目標を設定します。

  1. 業界ベンチマークを調査する(SaaS業界では月次90〜95%、年次70〜80%が標準)
  2. ターゲット市場別の適切な水準を確認する(エンタープライズ95%以上、ミッドマーケット92〜95%、SMB85〜92%)
  3. 自社のACV(年間契約金額)と整合性を確認する(高ACVほど高いリテンションが必要)
  4. 成長ステージに応じた現実的な目標を設定する(アーリー60%以上、グロース90%、スケール95%以上)
  5. 前年比で2〜5%ポイントの改善目標を設定する
  6. 月次NRRは100%以上(アップセルで既存顧客から収益拡大)を目指す

使用場面: 事業計画策定時、予算策定時、KPI設定時に活用します。自社のビジネスモデルと市場特性に応じた現実的な目標を設定することで、リテンション改善の取り組みを効果的に推進できます。急激な改善は困難なため、継続的な取り組みが重要です。

リテンション悪化の早期発見

定量的・定性的なシグナルを監視し、リテンションレートの悪化を早期に発見して迅速に対処します。

  1. 定量的な早期警告シグナルをモニタリングする(新規コホートのリテンション低下、初期リテンション80%未満、NRR100%未満など)
  2. 定性的な早期警告シグナルを確認する(問い合わせ頻度減少、プロダクト利用減少、キーフィーチャー利用停止など)
  3. データ分析でどのセグメント、どの時期、どの理由で悪化しているか特定する
  4. 根本原因を特定する(プロダクト、価格、競合、市場変化のいずれが原因か)
  5. 影響が大きく実行可能な施策から優先的に着手する
  6. 施策実施後、コホート別に効果を定量評価する
  7. PDCAサイクルを回して継続的に改善する

使用場面: 月次または週次でリテンション指標を監視し、異常値や悪化トレンドを早期に発見します。特に新規コホートのリテンションが過去より低い、特定セグメントのリテンションが急落している、サポートチケット数やネガティブフィードバックが増加している場合は、迅速な対処が必要です。

カスタマーサクセスへの組み込み

カスタマーサクセス(CS)チームの活動にリテンション向上施策を組み込み、体系的に実行します。

  1. オンボーディング強化を実施する(初期30〜90日の初期設定サポート、トレーニング提供、早期価値実感の実現)
  2. ヘルススコアシステムを構築する(プロダクト利用頻度、サポート利用状況、NPS、契約更新期間を数値化)
  3. ヘルススコア低下顧客に優先的にアプローチする
  4. 定期的なエンゲージメントを実施する(QBR実施、ベストプラクティス共有、新機能紹介、フィードバック収集)
  5. 解約リスク顧客に能動的に介入する(ヘルススコア低下時のアウトリーチ、価値再確認、更新前3〜6ヶ月の関係強化)
  6. 解約顧客から学びを得る(解約理由の詳細ヒアリング、解約原因の分類・分析、プロダクト改善へのフィードバック)

使用場面: カスタマーサクセスチームの活動計画策定時、オンボーディングプロセス設計時、ヘルススコアシステム構築時に活用します。初期リテンション80%以上を目指し、ヘルススコアが低下した顧客には迅速に対応することで、解約を未然に防ぎ、長期的なリテンション向上を実現します。

リテンションレートを向上させる5つの戦略

高いリテンションレートは事業の安定性を示す

リテンションレートが高いほど、安定した収益基盤があり、予測可能な成長が実現できます。

注意点

リテンションレートが低いと、新規顧客を獲得しても既存顧客が流出するため、「穴の開いたバケツに水を注ぐ」状態になります。売上成長が鈍化し、LTV(顧客生涯価値)が低下するため、CAC(顧客獲得コスト)を回収できなくなるリスクがあります。

解決策

月次リテンションレート90%以上を目標に設定し、継続的にモニタリングします。特に初期30〜90日のオンボーディング期間に注力し、顧客が早期に価値を実感できるよう支援します。ヘルススコアシステムを構築し、リテンション低下の兆候を早期に発見して対処します。

既存顧客の維持コストは新規獲得の1/5〜1/7

新規顧客獲得よりも既存顧客維持の方がコスト効率が高いため、リテンション向上への投資ROIは非常に高いです。

注意点

リテンション施策を軽視し、新規獲得にのみ投資すると、マーケティングコストが増大し続けます。既存顧客が流出するたびに、その分を新規獲得で補う必要があり、効率の悪い成長サイクルに陥ります。

解決策

カスタマーサクセスチームを設置し、既存顧客の満足度向上に投資します。定期的なエンゲージメント施策(QBR、トレーニング、新機能紹介)を実施し、顧客との関係を強化します。リテンション向上への投資は、新規獲得への投資と同等以上の優先度で扱います。

初期定着率が長期リテンションを左右する

オンボーディング期間(最初の30〜90日)の定着率が、長期的なリテンションの基盤となります。

注意点

オンボーディング期間に適切なサポートを提供しないと、顧客は価値を実感できず、早期に解約してしまいます。初期30日のリテンションが80%を下回る場合、長期的なリテンション向上は困難です。初期段階での解約は、投資回収前の損失となり、事業の収益性を大きく悪化させます。

解決策

オンボーディングプログラムを体系化し、タイムトゥバリュー(価値実感までの時間)を最小化します。マイルストーン(「最初のプロジェクト作成」「最初のレポート生成」など)を明確に設定し、達成をサポートします。パーソナライズされたガイダンスを提供し、顧客の業種や役割に応じた活用方法を提案します。初期30日のリテンション80〜90%を目標とします。

リテンションレートの種類と使い分け

それぞれの特徴と違いを理解することで、より適切に活用することができます。それぞれの指標の特徴を理解して、適切に使い分けることが重要です。

指標測定対象計算方法ベンチマーク主な用途
カスタマーリテンションレート(顧客継続率)顧客数(社数・人数)期末継続顧客数 ÷ 期初顧客数 × 100月次90%以上(年次では約35%)顧客基盤の安定性評価、解約予防施策の効果測定
レベニューリテンションレート / GRR(収益継続率)既存顧客からの収益(期初MRR - チャーン - ダウングレード)÷ 期初MRR × 100月次90%以上(年次約35%)収益基盤の安定性評価、ダウングレード防止施策の効果測定
NRR(純収益継続率)既存顧客からの収益(拡張含む)(期初MRR + 拡張 - チャーン - ダウングレード)÷ 期初MRR × 100月次100%以上(年次100%以上が健全)事業全体の成長力評価、アップセル戦略の効果測定
チャーンレート(解約率)解約した顧客または収益解約顧客数(または解約MRR)÷ 期初数 × 100月次5%以下(年次では約45%以下)解約問題の深刻度評価、リテンション施策の必要性判断

まとめ

  • リテンションレートは、顧客継続率を測る最重要KPIで、SaaS企業の健全性を示す指標です
  • カスタマーリテンションとレベニューリテンションを目的に応じて使い分けることが重要です
  • SaaS業界の健全な月次リテンションは90〜95%、年次では70〜80%が目安です
  • オンボーディング最適化、価値提供、リスク顧客対応、セグメント別戦略、フィードバック活用の5つが鍵です
  • リテンションレートを継続的に測定・改善することで、安定した成長基盤を構築できます

まずは自社のリテンションレート(顧客・収益)を正確に計算し、コホート別に分析しましょう。業界ベンチマークと比較し、改善余地を特定することから始めてください。次に、解約リスク顧客を早期発見するヘルススコアシステムを構築し、オンボーディングプロセスを見直して初期定着率を向上させます。最後に、顧客フィードバックを体系的に収集・活用する仕組みを確立し、継続的な改善サイクルを回していきます。

自社のリテンションレート(顧客・収益)を正確に計算し、コホート別に分析する。業界ベンチマークと比較し、自社の立ち位置と改善余地を把握する。解約リスク顧客を早期発見するヘルススコアシステムを構築する。オンボーディングプロセスを見直し、初期定着率を向上させる。顧客フィードバックを体系的に収集・活用する仕組みを確立する。

よくある質問

Q: リテンションレートとチャーンレートの違いは何ですか?

A: リテンションレートは「継続した顧客の割合」、チャーンレートは「解約した顧客の割合」を示し、表裏一体の関係にあります。リテンションレート + チャーンレート = 100%です。例えば、リテンションレート90%の場合、チャーンレートは10%になります。どちらを使っても同じ現象を表現できますが、SaaS業界では一般的に「チャーンレート」という表現が多く使われます。一方、リテンションレートは「継続」というポジティブな視点で評価できるため、目標設定や社内コミュニケーションでは好まれることもあります。

Q: リテンションレートはどの程度が良い水準ですか?

A: SaaS業界の一般的なベンチマークとして、月次カスタマーリテンションは90〜95%(月次チャーン5〜10%)、年次では70〜80%が健全とされています。ただし、ターゲット市場によって大きく異なります。エンタープライズ向けSaaSでは月次95%以上(年次80%以上)、ミッドマーケット向けでは月次92〜95%、SMB向けでは月次85〜92%が目安です。重要なのは、自社のビジネスモデル(ACV、ターゲット市場)に応じた適切な水準を設定し、継続的に改善していくことです。

Q: 新規顧客をリテンションレートの計算に含めるべきですか?

A: いいえ、含めるべきではありません。リテンションレートは「既存顧客の継続率」を測る指標であり、期間中に新規獲得した顧客を含めると、正確な評価ができません。正しい計算方法は、「期末継続顧客数 ÷ 期初顧客数 × 100」です。例えば、月初100社、月末の総顧客数110社(既存95社 + 新規15社)の場合、リテンションレートは95%(95社 ÷ 100社)であり、110%ではありません。新規顧客の獲得状況は、別途「成長率」や「純増数」として評価します。

Q: カスタマーリテンションとレベニューリテンションはどう使い分けるべきですか?

A: カスタマーリテンション(顧客継続率)は顧客数ベース、レベニューリテンション(収益継続率)は収益ベースで測定します。使い分けのポイントは、顧客間の収益格差です。収益格差が小さい場合(顧客単価が均一)は、カスタマーリテンションで十分です。しかし、エンタープライズとSMBが混在するなど収益格差が大きい場合は、レベニューリテンションも併用すべきです。例えば、カスタマーリテンション90%でも、高単価顧客が解約していればレベニューリテンションは80%になることもあります。両方をモニタリングすることで、より正確な事業評価が可能になります。

Q: 解約リスクの高い顧客をどう見つけるべきですか?

A: 解約リスクは、複数の指標を組み合わせた「ヘルススコア」で評価します。主な指標は、①プロダクト利用頻度・深度の低下、②ログイン頻度の減少、③サポート問い合わせの減少(関心喪失)、④NPS(推奨度)スコアの低下、⑤支払い遅延・失敗、⑥ネガティブフィードバックの増加などです。これらを点数化し、総合スコアが閾値を下回った顧客を自動的にアラートする仕組みを構築します。早期発見により、CSチームが優先的にアプローチし、解約を防ぐことができます。

Q: リテンションレートを改善する最も効果的な方法は何ですか?

A: 最も効果的な方法は、オンボーディング体験の最適化です。多くの解約は、サービス利用開始後の初期段階(最初の30〜90日)で発生します。この期間に顧客が価値を実感できれば、長期的なリテンションが大幅に向上します。具体的には、①タイムトゥバリュー(価値実感までの時間)の短縮、②段階的な機能紹介、③パーソナライズされたガイダンス、④達成すべきマイルストーンの明確化、⑤能動的なサポート提供が重要です。初期30日のリテンションを80〜90%に高めることができれば、長期的なリテンション向上の基盤となります。