粗利は十分あるのに営業利益が残らない...その原因は「販管費」が膨らんでいるからかもしれません。販管費を適切に管理できていますか?
多くの企業が売上や粗利に注目する一方で、販管費(販売費及び一般管理費)の管理がおろそかになっています。広告費、人件費、家賃など、売上に直接関係しない費用が積み重なり、気づいたときには粗利を圧迫している状況に陥るケースが少なくありません。販管費を適切に管理できなければ、いくら売上を伸ばしても利益は残りません。
この記事では、販管費(販売費及び一般管理費)の基本概念から具体的な内訳、業種別の適正比率、そして効果的な削減方法まで、わかりやすく解説します。損益計算書での販管費の位置づけを理解し、無駄なコストを削減することで、営業利益を確実に改善できるようになります。
この記事で学べること
- 販管費(販売費及び一般管理費)の基本概念と損益計算書での位置づけ
- 販管費の具体的な内訳と各費目の特徴
- 業種別の適正な販管費率と自社の健全性チェック方法
- 販管費を効果的に削減するための具体的な5つの施策
用語の定義
販管費(販売費及び一般管理費) (SG&A (Selling, General and Administrative Expenses))
販売活動と管理業務にかかる費用の総称で、粗利(売上総利益)から差し引いて営業利益を算出する際に使用される費用項目
販管費(はんかんひ)は、正式には「販売費及び一般管理費」と呼ばれ、企業の販売活動と管理業務にかかる費用の総称です。損益計算書では、売上高から売上原価を引いた粗利(売上総利益)から、さらに販管費を差し引くことで営業利益を算出します。販管費には、広告宣伝費、人件費、地代家賃、減価償却費、通信費、旅費交通費など、多岐にわたる費目が含まれます。売上原価が「商品・サービスを作るコスト」であるのに対し、販管費は「売る・管理するコスト」という違いがあります。販管費の多くは固定費(売上に関係なく発生する費用)で、売上が減少しても簡単には削減できない特徴があります。
販管費は、レストランで例えるとわかりやすいです。料理を作る材料費や調理スタッフの人件費は「売上原価」ですが、広告費、ホールスタッフの給料、店舗の家賃、看板の減価償却費などは「販管費」です。いくら料理が売れても、これらの費用が高すぎると最終的な利益は残りません。
販管費は損益計算書の中で、粗利(売上総利益)と営業利益をつなぐ重要な費用項目です。売上高から売上原価を引いて粗利を算出し、そこから販管費を引くと営業利益になります。販管費は固定費と変動費の両方を含みますが、人件費や家賃など固定費の割合が高いため、売上が減少しても費用は減らず、利益を圧迫しやすい特徴があります。そのため、損益分岐点分析では販管費の管理が重要となります。また、売上原価とは異なり、販管費は商品・サービスの生産には直接関係せず、販売活動や管理業務に関連する費用です。
販管費を効果的に削減する実践的な方法
費目別の詳細分析と優先順位付け
販管費を削減する第一歩は、各費目の内訳を詳細に分析し、削減余地の大きい項目を特定することです。
- 過去1年分の販管費を費目別に集計し、全体に占める比率を算出
- 各費目を「金額の大きさ」「削減可能性」の2軸でマトリクス化
- 高金額×高削減可能性の費目を最優先ターゲットに設定
- 月次推移を分析し、異常値や急増している費目を特定
- 同業他社や業界平均と比較し、自社の突出している費目を把握
- 上位3つの費目に集中して削減施策を立案・実行
使用場面: 営業利益率が低下している、または販管費率が業界平均を上回っている場合に実施します。全ての費目を一律削減するのではなく、効果の大きい項目に集中することが成功の鍵です。
固定費の変動費化
固定費を変動費に転換することで、売上の変動に応じてコストを柔軟に調整できる体質を作ります。
- オフィス賃貸→コワーキングスペースやシェアオフィスの活用
- 正社員→業務委託や派遣社員の活用(コア業務は除く)
- 自社設備→クラウドサービスへの移行(サーバー、ソフトウェア)
- 固定広告→成果報酬型広告やアフィリエイトの活用
- 車両所有→カーシェアリングやレンタカーの活用
- 変動費化による柔軟性と、品質・安定性のバランスを定期的に評価
使用場面: 売上の変動が大きい業種や、事業拡大・縮小の可能性がある成長期の企業に有効です。ただし、コア業務の品質を損なわないよう、固定費として保持すべき項目と変動費化すべき項目を慎重に判断することが重要です。
デジタル化・自動化による効率化
ITツールやシステムを活用して業務を効率化し、人件費や事務コストを削減します。
- 会計・給与計算のクラウド化で経理業務の工数削減
- CRMやSFAで営業活動を可視化・効率化
- チャットボット導入で顧客対応の自動化
- RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)で定型業務を自動化
- Web会議ツールで旅費交通費を削減
- 投資対効果を測定し、費用削減額とシステム導入コストを比較
使用場面: 定型業務が多い、人手不足に悩んでいる、または旅費交通費が膨らんでいる企業に有効です。初期投資は必要ですが、中長期的には大幅なコスト削減と業務効率化が期待できます。
外注・アウトソースの見直し
外部委託している業務を内製化、または逆に非コア業務を外部委託することで、トータルコストを最適化します。
- 外注している業務のコストと内製化コストを比較分析
- コア業務は内製化、非コア業務は外部委託という基準を明確化
- 複数の外注先から相見積もりを取り、価格交渉を実施
- 長期契約の見直しや、より安価なサービスへの切り替え検討
- 業務量の変動に応じて柔軟に調整できる契約形態に変更
- 品質を維持しながらコストを削減できるバランスを見極める
使用場面: 外注費が膨らんでいる、または社内に余剰人員がいる場合に検討します。コア業務と非コア業務を明確に区別し、戦略的に内製化・外注化を判断することが重要です。
予算管理と費用承認プロセスの強化
各部門に予算を設定し、費用発生のプロセスを明確化することで、無駄な支出を防ぎます。
- 費目別・部門別に年間予算を設定し、月次で実績を管理
- 一定金額以上の支出には事前承認を必須化
- 四半期ごとに予算と実績の差異分析を実施
- 予算超過の原因を特定し、改善策を立案
- コスト意識を高める社内教育や、節約成功事例の共有
- 予算達成率を評価指標に組み込み、インセンティブを設定
使用場面: 販管費が無計画に膨らんでいる、または各部門のコスト意識が低い企業に有効です。予算管理を徹底することで、全社的なコスト削減意識を醸成できます。
販管費削減を行う際の注意点
短期的な削減と長期的な成長のバランス
販管費を過度に削減すると、短期的には利益が出ても、長期的な成長を阻害するリスクがあります。
注意点
広告費や人材育成費を削減しすぎると、売上減少や人材流出を招き、結果的に企業の競争力を失います。目先の利益確保のために未来の成長を犠牲にしてしまいます。
解決策
削減すべき費用と投資すべき費用を明確に区別しましょう。顧客獲得、商品開発、人材育成など、将来の成長に不可欠な投資は維持し、不要な費用や効果の薄い支出を優先的に削減します。短期的な利益と長期的な成長の両方を見据えたバランスの取れた削減計画が重要です。
従業員のモチベーション低下を防ぐ
人件費削減や福利厚生の見直しは、従業員のモチベーション低下を招き、生産性低下や離職につながるリスクがあります。
注意点
一律の給与カットや福利厚生削減は、優秀な人材の流出を招きます。残った社員も士気が下がり、生産性が低下し、結果的に業績がさらに悪化する悪循環に陥ります。
解決策
人件費削減は最後の手段と考え、まず他の費目の削減を優先しましょう。どうしても人件費に手をつける必要がある場合は、透明性のあるコミュニケーションを行い、理由を丁寧に説明します。また、成果に基づいた評価制度を導入し、優秀な人材には適切に報いる仕組みを維持することが重要です。
品質やサービスレベルの低下を避ける
過度なコスト削減は、製品・サービスの品質低下や顧客対応の質の低下を招き、顧客満足度を損なうリスクがあります。
注意点
カスタマーサポート人員を減らしすぎると、対応時間が遅くなり顧客満足度が低下します。消耗品費を削りすぎると業務効率が下がります。結果的に売上減少につながり、本末転倒になります。
解決策
顧客接点に関わる費用や、品質に直結する費用の削減は慎重に行いましょう。削減前後で顧客満足度調査や品質指標をモニタリングし、悪影響が出ていないか確認します。また、プロセス改善や効率化によるコスト削減を優先し、単純な費用カットは最小限に留めることが重要です。
業種・企業規模による適正比率の違い
販管費率の適正水準は業種や企業規模によって大きく異なります。一律の基準で判断するのは適切ではありません。
注意点
製造業の販管費率とサービス業の販管費率を同じ基準で評価すると、誤った判断をしてしまいます。また、成長期のスタートアップと成熟企業では適正な投資水準が異なります。
解決策
自社の業種・企業規模における平均的な販管費率を調査し、同業他社と比較しましょう。業界団体の統計や上場企業の財務諸表が参考になります。また、自社の成長ステージに応じた適正水準を設定し、画一的な削減目標ではなく、戦略的なコスト配分を目指すことが重要です。
販管費の主要な費目と内訳
販管費には多様な費目が含まれます。主な費目とその特徴を理解することで、どこにコスト削減の余地があるか見極めることができます。
| 費目 | 内容 | 固定/変動 | 削減難易度 |
|---|---|---|---|
| 人件費 | 給料・賞与・法定福利費 | 固定費 | 高(最大の費目だが削減は慎重に) |
| 広告宣伝費 | 広告出稿・販促活動費用 | 変動費 | 中(効果測定で最適化可能) |
| 地代家賃 | 事務所・店舗の賃料 | 固定費 | 高(契約期間中は変更困難) |
| 減価償却費 | 設備・ソフトウェアの償却 | 固定費 | 高(過去の投資の結果) |
| 旅費交通費 | 出張費・営業活動の交通費 | 変動費 | 中(オンライン化で削減可能) |
| 通信費 | 電話・インターネット費用 | 固定費 | 低(プラン見直しで削減可能) |
| 消耗品費 | 文房具・備品等 | 変動費 | 低(小額だが見直し余地あり) |
| 支払手数料 | 外部委託・専門家報酬 | 変動費 | 中(内製化で削減可能) |
💡 ヒント: 販管費の中で最も大きいのは通常「人件費」で、全体の40〜60%を占めることが多いです。次いで地代家賃、広告宣伝費が続きます。削減を検討する際は、費用の大きさと削減の実現可能性の両方を考慮しましょう。
まとめ
- 販管費は販売活動と管理業務にかかる費用で、粗利から引いて営業利益を算出する
- 人件費、広告宣伝費、地代家賃が主要な費目で、固定費の割合が高い
- 削減方法は5つ:費目分析、固定費の変動費化、デジタル化、外注見直し、予算管理
- 過度な削減は長期的な成長阻害や品質低下を招くため、戦略的な判断が必要
- 業種別の適正比率を把握し、同業他社と比較して自社の位置を確認する
まずは直近1年間の販管費を費目別に集計し、全体に占める比率を算出してみましょう。上位3つの費目を特定し、同業他社と比較して、自社に削減余地があるかどうか確認してください。
よくある質問
Q: 販管費と売上原価の違いは何ですか?
A: 売上原価は商品・サービスを作るための直接的なコスト(仕入原価、製造原価)で、販管費は販売活動や管理業務にかかるコストです。例えば、商品の材料費は売上原価、その商品を売るための広告費や営業担当の給料は販管費に分類されます。損益計算書では、売上高 − 売上原価 = 粗利、粗利 − 販管費 = 営業利益という関係です。
Q: 販管費にはどのような費目が含まれますか?
A: 主な費目は、人件費(給料・賞与・法定福利費)、広告宣伝費、地代家賃、減価償却費、旅費交通費、通信費、消耗品費、支払手数料などです。企業によって項目は異なりますが、販売活動と管理業務にかかる費用全般が含まれます。最も大きいのは通常「人件費」で、販管費全体の40〜60%を占めることが多いです。
Q: 販管費率はどれくらいが適正ですか?
A: 適正な販管費率は業種によって大きく異なります。製造業は20〜30%、小売業は15〜25%、サービス業は30〜50%程度が一般的です。自社の業種の平均値を調べ、同業他社と比較することが重要です。また、成長期の企業は広告費や人材投資が多いため、販管費率が高めになる傾向があります。
Q: 販管費を削減する際に最も注意すべきことは何ですか?
A: 最も注意すべきは、短期的な利益確保のために長期的な成長を犠牲にしないことです。顧客獲得、商品開発、人材育成など、将来の成長に不可欠な投資は維持し、不要な費用や効果の薄い支出を優先的に削減します。また、従業員のモチベーション低下や品質・サービスレベルの低下を招かないよう、戦略的にバランスを取ることが重要です。
Q: 固定費と変動費の違いは何ですか?
A: 固定費は売上に関係なく一定額発生する費用(家賃、正社員の給料、減価償却費など)で、変動費は売上に比例して増減する費用(広告費の一部、外注費、消耗品費など)です。販管費の多くは固定費であるため、売上が減少しても費用は減らず、利益を圧迫しやすい特徴があります。固定費を変動費化することで、売上の変動に柔軟に対応できる体質を作れます。