知らなかった!?では済まされない【業務委託契約書とは】
最近ではサラリーマンという固定の雇用主を見つけて仕事をするというスタイルではなく、フリーランスという仕事のスタイルで日々生きている人たちが多数出てきています。
これは、パソコンやスマートフォンといった電子機器の普及や通信費の低下、さらには終身雇用制度の崩壊など、様々な要因が積み重なってできている社会潮流と言えるでしょう。
さて、サラリーマンからフリーランスへ転換した際に、最初に出会うのがこの「業務委託契約」と言うものだと思います。
多くのサラリーマンは自分の「雇用契約」を隅々まで事細かに読んだという経験はないかもしれませんが、ひとたびフリーランスになりこの「契約」を結ぶことになった契約書については必ず目を通す必要があります。
この契約書が最後の最後で自分の身を守ることになった、というようなことは往々にしてあるのです。
Contents
業務委託契約とは何を指すのか
まず、「業務委託契約」とは何を指すのでしょうか。
これは非常に難しい問題です。なぜなら、そもそも法律用語として、或いは民法上、「業務委託契約」という言葉は存在しないためです。
では、これは違法なのかといわれるとそういうことではありません。
「業務委託契約」という文言には多くの意味が含まれており、また法律上の制限のない自由度の高い契約となるため、好んで使われているというのが現状なのです。
「業務委託契約」を法律上の用語で説明しようとするとどうなるのでしょうか。
大きく分けて
- 「請負契約」
- 「委任契約」
になります。
これが混在する様な契約も多数みられますので、これを明確に区別することは難しいでしょう。
ただし、実態が「労働契約」や「労働者派遣契約」に該当すると違法となることがあるので注意が必要です。
こちらが心配な場合は、労働契約法第6条(労働契約の成立)と民法第623条(雇用)を確認してください。
報酬が「働いたことそのもの(≒時間給や日給)」であったり、給与所得として報酬が源泉徴収されていたり、さらには就業規則や服務規律の適用を受け勤務場所や勤務時間が拘束されているなどの要件が重なると、例え「業務委託契約」という名の契約書を交わしていたとしても、実質は労働契約であるとみなされる場合があります。
請負契約と委任契約
それでは、「業務委託契約」の中にある
- 「請負契約」
- 「委任契約」
について説明します。
ちなみに、「委任契約」の中には「準委任契約」も存在します。こちらも併せて説明しましょう。
請負
請負契約では、「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約すること」と民法第632条にて決まりがあります。
重要な点は、「仕事が完成すること」によって報酬が発生します。
そのため、「何を以て仕事が完成したといえるか」という点が明記されているのかどうかに気をつけましょう。
委任
委任契約では、「当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾すること」と民法第643条にて決まりがあります。
委任契約は基本的に法律行為に対して行われる契約です。
主に弁護士に事件の弁護を依頼するなどの場合にこの契約が使われます。
準委任
準委任契約では「法律行為でない事務の委託について準用」と民法第656条にて決まりがあります。
基本的に法律行為でない委任契約をすべて準委任契約と呼ぶと考えてください。
準委任契約では重要なのは事務の処理になります。
そのため、「事務とは何を指すのか」「処理とは何を指すのか」の2点がしっかりとお互いに合意が取れているのかに気をつけましょう。
責任の範囲
請負契約と準委任契約では責任の範囲が異なります。
請負契約では「仕事の完成」に、準委任契約では「事務の処理」にそれぞれ責任を負うことになります。
そのため、請負契約では、仕事を完成させなければ報酬は得られず、また業務を実施すればいいだけではなくユーザーや契約者の意向に合わせて物事を進めていかなければ「仕事の完成」にはなりえません。
そのため、「何が仕事の完成なのか」ということをお互いに明確に合致してなければ契約を結ぶべきではないということになります。
一方で準委任契約では「善良なる管理者注意義務」の元、業務を処理することが要件となります。
仕事の完成義務は負いません。
例えば、大学受験のための塾講師や家庭教師は、「勉強を教える」という業務を処理するのが仕事であって、「●●大学に合格させる」という業務の完成には責任を負いません。
業務委託契約のメリットとデメリット
メリット
業務委託として働くメリットは、その仕事スタイルそのものにあります。
基本的には勤務先や時間を拘束されることがなく、求められた仕事の完成やその処理に当たればよいとされているため、場合によっては自宅勤務なども可能になります。
また、自分の専門分野を活かすことが求められるため、スペシャリストとしての能力を存分に活かすことができます。
給料についても、他のサラリーマンとは異なる給料体系となるため賃金カーブも違った変遷を見せます。
そもそも、業務委託契約で働くフリーランサーとしては給料というよりも売り上げや収入と表現した方が良いかもしれません。
デメリット
デメリットはサラリーマンの時に完備されていた社会保障関係を受けることができないということです。
また、基本的には雇用ではなく独立した個人事業主として見られるため、労働基準法などの適用を受けることができません。
このため、残業請求や有休と言ったシステムとは無縁の働き方となります。
更にサラリーマンの時は年末調整という形で給料から税金が天引きされていましたが、個人事業主としては税金の申告なども自らが行う必要があります。
自分の身は自分で守っていくという気概が必要になってくるのがフリーランスという働き方です。
契約書に必要な内容と書き方10ポイント
それでは、具体的に業務委託契約書について説明していきます。
契約書を作る上でトラブルとなりやすいポイントが主に10個あります。
少し多いですが、1つずつ説明していきましょう。
また、基本的にはフリーランス側、すなわち業務受託側の視点になってこの部分は書かれています。
ポイント1 契約の形態
契約の形態というのは、自分が今からむすぶ契約というのが「請負契約」なのか「準委任契約」なのかということです。
これは端的に何を成果物と呼ぶのかというすり合せの作業でもあります。
WEBシステムの構築やイラストを作る、文書や企画書を作るなど、第三者的も明らかな成果物がある場合は「請負契約」とすべきでしょうが、それも性格によっては、辞めた方が良いかもしれません。
必ず契約書に入れなければならないわけではありませんが、不安なら書いておくべきです。
ポイント2 業務内容
業務内容や範囲を具体的に特定します。
出来る限り細かく具体的に書くとその後のトラブルを未然に防いでくれます。
特に「請負契約」では「仕事の完成」を以て業務とするわけですから、何を以て「仕事の完成」とするのかについて記載がなければ安心して業務に入れません。
また、準委任契約の際のトラブルとして
- 「こんな業務内容まで含まれているとは思わなかった」
- 「話が違う」
といったトラブルも、この業務内容を明確化することによってある程度は防げることになります。
ポイント3 報酬の支払期日と払い方
受け取る報酬の金額やその期日です。
また、着手金や分割といった形の払い方もしっかりと記載します。
この部分は時に委託側の機嫌を損ねるのではないかという不安もあり、受託側が弱くなりがちな部分です。
しかし、受託側としても自分の生活が懸かっている部分ですのでしっかりと交渉しましょう。
特に納品後すぐに支払いが行われるようにお互いが努めるべきです。
ポイント4 経費
業務遂行に当たり、経費がどの様に対応されているのかを明記します。
出来る限り報酬外で請求できる部分を増やした方が良いでしょう。
具体的には旅費や交通費、通信費などがそれに当たります。
特に自宅勤務などが中心となる場合は、意外とバカにならないのが通信費です。
ポイント5 損害賠償
損害が絡むトラブルは発生しないことに越したことはないのですが、備えあれば憂いなしです。
「責任の範囲」や「金額の制限」などを設けておくことは、トラブルが発生した際のやり取りをスムーズにしてくれます。
ポイント6 知的財産権
システムや記事の執筆、イラストなど成果物が発生する仕事において、その成果物の権利は誰が持つかということです。
多くの場合は、委託側に譲渡されることになるかと思います。
ただ、この成果物の所有権を無条件で譲渡というのはいかがなものなのかという議論もあり、委託側としても自動的に手に入るという認識では上手くいかない場合もあり得ます。
ポイント7 納品期限やその方法
仕事の完成に必要な期間です。納品期限を決定すると、この期日までに仕事を完了或いは事務の処理を行うことを求められます。
この納品期限やその方法についてトラブルの種が最も潜んでいるので、しっかりとお互いの認識を確認しておくことが大事です。
特に例えば受託側が交通事故などで全く業務に入れなかった場合などを考慮に入れ、
「納入遅延のおそれがある場合、委託者に対しその旨を遅延理由とともに直ちに通知し、新たな納入予定日等について指示を受ける。」
などの文言を入れておくことが、望ましいでしょう。
ポイント8 検収方法や期間
検収とは納品された成果物が、計画に即しているかどうかを判断することになります。
ここでは、検収方法やその期間を正確にしておきましょう。
この検収方法が明確でないと、受託側としては仕事が完成したのかどうかよくわからなくなってしまいます。
また、期間が定められていないと、忘れたころに連絡が来て修正業務を行わなければならないなどの事態に陥りかねません。
ポイント9 瑕疵担保期間
検収を終了し、仕事が完成したと両者が思っていたけれども、予期せぬバグや欠陥が発生することがあります。
これを瑕疵と呼びますが、この瑕疵に対応する期間を必ず記入します。
そうでなければ、5年前10年前に作ったシステムについての瑕疵責任が問われるなどのトラブルの可能性が出てきます。
この瑕疵担保期間は短ければ短いほど受託側にとっては得です。通常は1か月~長くても3か月程度と言われています。
ポイント10 所轄裁判所
何か契約上のトラブルがあり、裁判で決着しなければならなくなるときは必ずあります。
この裁判中は何度も裁判所に足を運ぶ必要があります。
このため、出来る限り自分の住んでいる地域から近いところを所轄裁判所としておく方が無難です。
裁判中の移動費や旅費は本当に馬鹿にできない金額へと膨らんでいくことがあります。
契約に必要な印紙
最後に契約書に必要な印紙についてお話します。
基本的に業務委託契約としては、「準委任契約」や「委任契約」では印紙が必要なく、「請負契約」では所謂2号文書となり印紙が必要です。
ただし、「準委任契約」や「委任契約」でも、契約内容が「売買」か「運送」に関することで、かつ3か月以上の継続取引である場合は7号文書として認識される場合があります。
2号文書の印紙については、その契約書にかかれている契約金額によって異なります。
1万円未満 | 非課税 |
100万円以下 | 200円 |
100万円を超え200万円以下 | 400円 |
200万円を超え300万円以下 | 1,000円 |
300万円を超え500万円以下 | 2,000円 |
500万円を超え1千万円以下 | 1万円 |
1千万円を超え5千万円以下 | 2万円 |
5千万円を超え1億円以下 | 6万円 |
1億円を超え5億円以下 | 10万円 |
5億円を超え10億円以下 | 20万円 |
10億円を超え50億円以下 | 40万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 |
契約金額の記載のないもの | 200円 |
7号文書に関しては、金額の多寡を問わず、一律4,000円となります。
まとめ
業務委託契約について、トラブルの元となりそうな話も含めてまとめてみました。
フリーランスは1人で仕事をしなけれならないという側面が極めて強く、サラリーマンのように組織で対応できないため、数多くのことを1人で対応する必要があります。
契約書は特に注意が必要なもので、よくわからない契約書にサインしてしまったがために、本来の業務にさえ差支えが出てきたなどということも往々にしてあり得ます。
契約を結ぶ際は、確かにこれで仕事が取れるといった安心感や、相手の機嫌を損ねないようにしなければといった気持になりやすく、及び腰になってしまい、重要な説明を聞き忘れたり小さな不安について再度検討したりなどということを怠りがちです。
しかしながら、そういった「わかってくれるだろう」といった気持が、大きなトラブルを招くきっかけにもなりえます。契約書は自分を守る最後の砦です。
トラブルなく仕事を終えるためにも、気を引き締めて契約に望んでください。