ぜひとも身に付けたい「本店移転登記」を行う4ステップ
これから「本社の移転を考えている方」や「本社移転の真っ最中の方」などは、本社を移転する準備や手続きなどで大忙しだと思います。
その本社を移転する時に「あれ、本店移転の登記って必要だったのかな?」と思われるかもしれません。
または「本店移転の登記って、どのように行うのか?」とか「登記に費用がどのくらいかかるのか?」などを知っておきたいと思われることも多いようです。
今回は
- 「本社を移転する時に【本店移転の登記】が必要かどうか?」
- 「そもそも登記とは何か?」
- 「本店移転の登記の費用はどのくらいかかるのか?」
- 「近い場所に移転する場合と遠くに移転する場合で手続きは違うのか?」
- 「本店移転の登記の具体的な方法(ステップ)は?」
などを見ていきましょう。
ぜひ、「本社移転」および「法人登記」について知りたい方は、お役立てください。
本社を移転する時に考えるべき「本店移転の登記」とは何か?
通常では、「何度も本社を移転したことがある」と言う方は少ないはずです。
それは営業戦略上のため、環境の変化の対応するためなど様々な理由で本社を移転することはあります。
しかし、コロコロと本社を移転していては、引越しの費用がかかったり、顧客や取引先から覚えてもらいにくかったりとデメリットもあるので、何回もすることではないからです。
「いざ本社を移転する」となると、初めての方がほとんどなので、何からしてよいか分からないことも多いのです。
さらに本社を移転することは単なる引越しだけでなく、様々な手続きなども発生するので大変です。
その中で「登記」も一つの手続きです。
本社移転に関する登記のことを「本店移転の登記」と言います。
そもそも「本社を移転する際に登記は必要なのか?のような「本店移転の登記」の基本的な部分をお伝えしていきます。
そもそも本社を移転するだけでも「登記」は必要なのか?
では、「そもそも本社を移転する時に登記は必要なのか?」と言う点を考えて行きましょう。
結論から言うと、「本店移転の登記」は必要です。なぜ必要かと言うと、法律(会社法)で規定されているからです。
まず会社法911条によって会社を設立した時に本店所在場所を登記することになっています。
そして、会社法915条、会社法916条などによって、その変更があった場合は2週間以内に変更登記をすることが定められています。よって、「本店移転の登記は必要」となります。
では、2週間以内に本店移転の登記をしなかったらどうなるのでしょうか?
2週間以内に変更登記をしないと過料を科せられる可能性があります。
そうならないように、本社の移転をしたら(本店移転の登記の必要が出たら)速やかに対応をしましょう。
そもそも「登記」とは何か?
登記は不動産登記や法人登記(商業登記)などがあります。
その中で、法人登記(商業)とは、登記所において本店の所在場所や会社名、役員名など会社の基本的な情報を商業登記簿と呼ばれるものに登録することを言います。
法人登記は、厳密に言うと商業登記と言います。
しかし、株式会社などの法人の登記についてのものなので、法人登記と言う言葉を使うことも多くあります。(ここより先は商業登記に統一していきます。)
まず商業登記が必要なのは会社を設立した際です。
会社設立時には定款と呼ばれる会社の基本的な決まりを作成します。
その定款の内容を登記所(法務局)に登記(商業登記簿に登録)しなければなりません。(会社法)
そして、その作成された商業登記簿の内容に変更がある都度、商業登記簿の変更の登記を行う必要があります。(会社法)
では、なぜ会社の情報を法務局に登記しなければならないのでしょうか?
情報を隠していてはいけないのでしょうか?
登記された商業登記簿は誰が見ることが出来るようになるのでしょうか?
商業登記簿の登記された情報は、原則、誰でも閲覧することが出来ます。
つまり、会社の情報を社外の人が見ることが出来るのです。
これは「なぜ情報を公開する必要があるのか」と言う「登記する理由」でもあります。
本店所在場所や役員などの会社の情報を登記して一般に公開する理由とは、「商売(商取引)の安全性を確保するため」なのです。
商取引の安全性とは、情報が無いことによって商取引に置いて不利益が生じないようにすることです。
例えば自分の会社と新しく取引を開始しようとしている相手の会社が、自社のことを何も知らないままでは、商取引に不安が残ります。
つまり、相手の会社が自社との取引を躊躇するかもしれません。
その時に、安全な会社であると調べることが出来れば安心感があります。その調べる時に使えるのが商業登記簿なのです。
この理由(商取引の安全性の確保)を考えると、情報が無いこともリスクですが、古い情報が登記されて新しい情報に変更されていないこともリスクです。
登記事項に変更があった場合も、期間内(原則2週間以内)に変更の登記をする必要があるのです。
定款とは何か?
定款とはその会社の基本的なルールを定めたものです。
すべての企業が会社設立時に定款を作成し、それらを商業登記しています。これは、会社法上に則り作成されます。
では会社設立時に作成されている定款にはそもそも何が書かれているのか見ていきましょう。
大きく分けると、
- 「定款に書かれていないと定款自体が無効になる事項(絶対的記載事項)」
- 「定款に書かれていないと効力が発生しない事項(相対的記載事項)」
- 「会社の任意で定款に書く事項(任意的記載事項)」
の3つとなります。
「絶対的記載事項」は、どんな会社でも書いてありますが、「相対的記載事項」と「任意的記載事項」は会社によって自由であり、書いてある場合と書いてない場合があるということです。
この「絶対的記載事項」の内容が
- 「事業目的」
- 「商号」
- 「本店所在地」
- 「発行株式総数」
となっています。
本店所在地は絶対的記載事項ですので、すべての企業が定款に定めている事項となります。つまり、この項目(本店所在場所)に変更があった場合は、変更の登記が必要となるのです。
移転する場所によって登記のステップは変わる?
「本店移転の登記」と言うと「移転する場所によって登記のステップが変わるのでは?」と言う話を聞いたことがあるかもしれません。
結論としては「本店の移転先が現在地の法務局の管轄内なのか、管轄外なのか」でステップが変わります。
ここで勘違いしてはいけないのは、管轄内の移転でも、管轄外の移転でも「本店移転の登記は必要」と言う点です。
登記の必要資料やステップが違うだけで、登記は両方とも必要だという点は忘れないでください。
「本店移転の登記」の注意点とは?
定款変更の必要性はあるのか?(原始定款とは?)
定款には絶対に掲載すべき「絶対的記載事項」があります。
その「絶対的記載事項」の一つが「本店所在地」であるので、これに変更があれば定款の変更も必要となります。
しかし意外と勘違いしている方が多いのは、「定款」は会社設立時に作成して、それを「変更されない(変更してはいけない)」と言う点です。
この間違いは「原始定款」と言う言葉があるからでしょう。
「原始定款」とは、会社設立時に作成した定款のことです。公証人の印などが押してあるので、「これ以外は定款ではない」と思い込みがちなのです。
確かに原始定款は、会社設立時に作成された定款(決まり)なので重要ですし、変更する場合もこの原始定款を基準に変更をしていくという意味でも重要です。
しかし上記のように「変更できない(変更してはいけない)」と言うものではありません。
必要に応じて「変更できる(変更しなければならない)」と言うものなのです。
「管轄内移転」と「管轄外移転」の違いとは?
「管轄内移転」と「管轄外移転」のステップについては後ほど説明していきますが、これらの違いとは何でしょう?
管轄内と管轄外と言うのは、法務局の管轄のことです。
法務局の管轄が同一区域内の移転かどうかと言う意味です。
法務局の管轄については、法務局のホームページの「管轄の案内」を参照してください。http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/kankatsu_index.html
東京都で例えると、同じ東京都内でも法務局の管轄が違えば、管轄外移転になります。
例えば、中央区内の移転であれば管轄内移転となりますが、品川区から中央区への移転は管轄外移転となります。
なお管轄内移転でも管轄外移転でも基本は変更登記(定款変更)が必要となります。
しかし、一部例外もあります。
それは、定款の本店所在地の記載方法によるものです。
例えば本店所在地を「本店を中央区○○丁目○○番○○号に置く」として具体的に記載してあるのであれば、中央区内の移転でも移転登記(定款変更)が必要となります。
しかし、定款によっては本店所在地を「本店を中央区に置く」としてある場合は、中央区内の移転であれば定款の変更の必要はなくなります。
なお、どちらにしても変更の登記は必要です。
「本店移転の登記」の費用はどのくらいかかるのか?
実際に事務所の引越しや名刺や封筒などの印刷物の住所変更などで様々な費用がかかるので、登記費用もどのくらいかかるか気になるところです。
これもまた「管轄内移転」と「管轄外移転」でかかる費用が変わります。
それは、管轄内であれば登録免許税が一か所分(30,000円)で済むところ、管轄外移転であると旧場所の法務局で登録免許税がかかるのと新しい場所の法務局で登録免許税がかかるため(計60,000円)です。
また本店移転の登記を司法書士等に依頼する場合は登録免許税とは別に報酬を支払うことになります。
報酬は管轄内移転と管轄外移転で倍も変わることはありませんが、管轄外移転の方が少し高くなります。
司法書士によって報酬は変わりますが、管轄内移転で約2~4万円、管轄外移転で3~5万円程度の報酬がかかることが多いです。
このように見ていくと管轄外移転を例にとると、登録免許税と報酬で10万円前後の費用がかかると考えておくほうが良さそうです。
「本店移転の登記」のステップとは?
「本店移転の登記」と一言で言っても、「管轄内移転」と「管轄外移転」ではステップや必要書類が違います。
本店移転の登記(管轄内移転)のステップとは?
まずは管轄内移転のステップを見ていきましょう。
ステップ1
移転先が法務局の管轄内なのか、管轄外なのかを調べます。前述したように法務局の管轄については、法務局のホームページの「管轄の案内」を参照してください。
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/kankatsu_index.html
移転先が都道府県外の移転などは分かりやすいですが、同じ都道府県内の移転でも法務局の管轄によっては管轄外移転になることもありますので注意が必要です。
ステップ2
現在の定款がどうなっているかの確認をしてください。
原始定款(会社設立時に作成した定款)だけでなくその後の変更なども調べて原稿の定款の本店所在地がどこになっているか(どうなっているか)を確認しましょう。
本店所在地を「本店を中央区○○丁目○○番○○号に置く」として具体的に記載してあるのであれば、中央区内の移転でも移転登記(定款変更)が必要となりますが、本店所在地を「本店を中央区に置く」などとしてある場合は、中央区内の移転であれば定款の変更の必要はなくなるからです。
定款の変更の必要がなければ株主総会の開催および特別決議が必要ありませんので、ステップ4に飛びます。
ステップ3
管轄内移転で定款変更が必要な場合には定款変更は株主総会の特別決議が必要となります。
特別決議を受けたら株主総会議事録を作成しておきます。
(※株主総会の特別決議とは「議決権の過半数をもつ株主の出席している株主総会で、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成」が必要な決議のことです。)
上記のように、株主総会を開催する必要があります。
株主が経営者のみであったり、少人数であったりすれば開催は簡単ですが、株主が多数の場合など召集や開催すること自体が大変となります。
また、大人数の場合は会場費などの費用も見積もっておく必要があります。
ステップ4
株主総会の特別決議を受けた後に取締役会(取締役会設置会社)を開催し、移転場所や移転時期の決議をして取締役会議事録を作成します。
(取締役会非設置会社の場合、取締役の過半数の一致)。
ステップ5
必要書類を整えて登記します。
管轄内の法務局での手続きになります。
司法書士等に依頼する場合も同様です。
本店移転の登記(管轄外移転)のステップとは?
ステップ1
管轄内移転同様に、移転先が法務局の管轄内なのか、管轄外なのかを調べます。
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/kankatsu_index.html
ステップ2
管轄外移転の場合はステップ2に行きます。移転先の商号調査を行います。
以前は同一市町村内で同一または類似した商号を使えないという類似商号の禁止がありました。
今では廃止されておりますが、不正な意図で類似商号を使うと不正競争防止法にも関して注意が必要ですので商号調査は行った方が良いと思います。
ステップ3
管轄外移転の場合は定款変更が必要となりますので、株主総会の特別決議が必要となります。
なお、特別決議を受けたら株主総会議事録を作成しておく必要があります。
(※株主総会の特別決議とは「議決権の過半数をもつ株主の出席している株主総会で、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成」が必要な決議のことです。)
上記のように、株主総会を開催する必要があります。
株主が経営者のみであったり、少人数であったりすれば開催は簡単ですが、株主が多数の場合など召集や開催すること自体が大変となります。
また、大人数の場合は会場費などの費用も見積もっておく必要があります。
ステップ4
株主総会の特別決議を受けた後に取締役会(取締役会設置会社)を開催し、移転場所や移転時期の決議をして取締役会議事録を作成します。
(取締役会非設置会社の場合、取締役の過半数の一致)
ステップ5
ステップ5では、必要書類を整えて登記します。
移転前の法務局と移転後の法務局での手続きが必要となります。
登録免許税が2か所分掛かることになります。司法書士等に依頼する場合も同様です。
「本店移転の登記」の必要書類とは?
- 株主総会議事録
(定款変更には株主総会の特別決議が必要ですので、その決議を記した議事録が必要となります。) - 取締役会議事録
(取締役会設置会社の場合、株主総会の特別決議を受けて、移転場所、移転時期などの具体的な取締役会決議が必要となります。その議事録が必要となります。なお、取締役会非設置会社の場合は、取締役の過半数の一致の取り締まりや決定書が必要となりなます。) - その他必要書類
(司法書士等に依頼する場合は委任状が必要など、必要に応じて書類を整えます。)
まとめ
本店の移転(本社を引っ越すこと)は、何度もあることではないので、通常であれば人生で1回経験するかどうかだと思います。
その中で、
- 「自分(自社)で本店移転の登記をする」
- 「それ以前に、自社の場合は登記が必要なのか?株主総会が必要なのか?」
- 「自分(自社)でやるか、専門家(司法書士など)に依頼するのか?を難易度、費用などから検討したい」
と言う方も多いはずです。
「本店移転の登記」のステップをケースごとに押さえておく
本店の移転する(本社を引っ越す)場合は、必ず登記が必要となります。
これは、商取引の安全性を高めるために必要なことで法律でも決められています。
しかし若干「本店移転の登記」が複雑なのは、ケースによってステップが違うことです。
登記は必要なので後半部分はほぼ同様なのですが、スタート地点が違うのです。
大きく分けると3通りになります。
ケース1「法務局の管轄内で定款の本店所在地が変更の必要のない場合」
⇒定款の変更が必要ないので株主総会の特別決議は不要。取締役会決議のみ。
その法務局内の移動登記。
ケース2「法務局の管轄内で定款の本店所在地が変更の必要がある場合」
⇒定款の変更が必要なので株主総会の特別が必要。取締役会決議も必要。
その法務局内の移動登記。
ケース3「法務局の管轄外で定款の本店所在地の変更をする場合」
⇒定款の変更が必要なので株主総会の特別が必要。取締役会決議も必要。
移転前の法務局内と移転後の法務局での手続き。
このようにケースによって必要な決議および議事録が変わってきますので、「自社はどのケースに当たるのか?」を確認しておくほうが良いのです。
書類の不備が無いように!
上記のように「本店移転の登記」の注意点はいくつかありますが、それほど難しいものではありません。
しかし本店(本社)を移転すると言うことは登記以外にもたくさんやるべきことが多いはずです。
- 実際の引っ越し準備
- 配線の対応
- 新規備品の購入
- 電気水道などの住所変更
- 銀行や取引先への連絡
- 名刺などの印刷物の修正
などと考えただけでも数えきれないほどです。
その中で、本店移転の登記をするのは大変です。
書類などの不備が無いように、期日までに遅れないようにするためにもしっかりとした準備・対応が必要となります。
自社内で対応することも可能ですが、専門家を活用することも検討していくほうが良いかもしれません。
本店移転(本社の引越し)は、経営にとっても重要なことだと思いますので、様々な面から検討しておく必要があるのです。