本当の事業価値がわかる財務諸表分析のポイントと5つの視点

財務諸表をしっかり見た事はありますか?

財務諸表と聞くととても難しそうな書類のように思えて、何となく拒否反応が出てしまうのは私だけではないはずです。

しかし、会計の知識がなくても全体の構造と見るべきポイントを絞ることで誰でも理解することができます。

そして、

  • 経営者
  • 事業責任者
  • 投資家
  • 取引先

といった様々な立場の人にとって、企業の経営実態を知るのに有益な情報を提供してくれます。

今回は関係書類の構造・意味、見方・分析指標、さらに会社・事業(保有資産)の実際の価値(評価方法)についても説明しています。

会社・事業の実態把握、経営強化、及び価値評価・投資判断のために役立ててください。

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Contents

財務諸表の構造を理解する

財務諸表の構造とは

財務諸表には、主に

  1. 損益計算書
  2. 貸借対照表
  3. キャッシュフロー計算書

という3つの計算書類があります。

これらは相互に密接な関係を持っています。期首を起点として期中の経営活動から期末に至るまでを、この3つの計算書の関連を中心に見てみます。

(取引を簡素化してあらわした関係図)

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貸借対照表が期首や期末の「一時点」の資産、負債、純資産の状態を示すのに対して、損益計算書やキャッシュフロー計算書は、1年間や四半期間等の「一定期間」の状況を表します。

上図のケースでは以下のような流れとなります。

  • 期首のキャッシュは貸借対照表からキャッシュフロー計算書に引き継がれる (①)
  • 期中の損益計算書の収益はキャッシュのみが(35)、キャッシュフロー計算書で計上される (②)
  • 収益のうち、キャッシュ以外(40-35=5)は売掛金として今期末の貸借対照表に計上される (②)
  • 期中のキャッシュ増分は、キャッシュフロー計算書の期首残高と合算されて今期末の貸借対照表に引き継がれる (③)
  • 損益計算書の当期純利益は、利益余剰金として、今期末の貸借対照表に計上される (④)

このように損益計算書とキャッシュフロー計算書は、それぞれ異なる見方・ルールで期中の活動を数字にあらわし、期末に貸借対照表により、資産、負債、純資産に分類、計上されます。

(3計算書の比較)

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損益計算書の見るべき3つのポイント

損益計算書は、商品・サービスの売上高から性質の異なる費用を段階的に差し引いて利益額を算出します。

その要素は、

  • 「3つの収益」
  • 「5つの費用」
  • 「5つの利益」

に分解できます。

売上高から順位費用を差し引いてそれぞれ利益を算出しています。

収益、費用、利益の概要

zaimu3
 *費用5:便宜上費用と区分しています

このように、損益計算書では、

  • 「3つの収益」
  • 「5つの費用」
  • 「5つの利益」

を見ていくことになります。

分析する人の立場・目的によりどの利益を重視するかは異なります。

事業そのものを評価するという意味では、「営業利益」が重視されるでしょうし、会社の健全性を評価する立場では「経常利益」が重視されるでしょう。

損益計算書の主な3つのポイント

ポイント1 売上総利益→売上総利益率をみる

算出式

売上総利益/売上高 (%)
利用目的  すべての利益の源である粗利益の獲得力をみる
目安/基準値

(全産業)28~33% 
(製造業)21~26% 
(サービス業)44~52%

評価ポイント

販売費及び一般管理費を除く原価率を示す、原価の多い製造業は低く、販売費の多いサービス業は高い。より多くの数を売る、または原価を下げると改善する。
製造機能を持たない(原価率の低い)業種ではあまり参考にならない。
特に製造業・生産部門で管理したい指標。

ポイント2 営業利益→売上高営業利益率をみる

算出式 営業利益/売上高 (%)
利用目的 粗利益から販売費及び一般管理費を差引いた本業の儲ける力をみる
目安/基準値 (全産業)3~8% 
(製造業)4~10% 
(サービス業)3~7%
評価ポイント

より多くの数を売る、または原価や販管費等の本業に関わる経費を削減すると改善する。
全業種において事業(本業)の利益率をみる一般的な指標で多くの関係者が参照する。

ポイント3 経常利益→売上高経常利益率をみる

算出式 経常利益/売上高 (%)
利用目的 通常の企業活動全体から生み出される利益の獲得力をみる
目安/基準値

(全産業)3~8% 
(製造業)4~11% 
(サービス業)4~9%

評価ポイント

より多くの数を売る、または原価や販管費等の本業に関わる経費を削減すると改善する。
営業外収益である財務活動の金利・利息の見直しも有効(支払う金利は少なく、受け取る利息は多く)。
全業種において本業以外も含めた企業活動の利益率をみる一般的な指標で、金融機関をはじめ多くの関係者が参照する。

注意

  • 「目安/基準値」にはTKC経営指標(税理士・会計士の関与先企業実績値)を参考値として記載しています。URL:http://www.tkc.jp/tkcnf/bast/
  • 算出式で、*を付けた項目は貸借対照表から入手される値です。

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貸借対照表の見るべき3つのポイント

貸借対照表は、大きく以下の2つのことを表します。

  1. 資金調達の源泉として、どこから調達したか?・・・出資金などの純資産なのか?借入れなどの負債なのか?
  2. 資金運用の使途として、何に使ったか?・・・固定資産か?流動資産か? 商品などの原価か?販売費などの経費か?

(貸借対照表及び損益計算書の構造を概念的に図式化したもの)

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貸借対照表を見れば、「どこから資金を調達して、何に使って、どんな成果をあげたのか」がわかります。

ある一時点における資産、負債、純資産の財政状態を読み取ることができます。

貸借対照表の主な3つのポイント

ポイント1 流動比率をみる・・・事業継続のためにと重要な値

算出式 流動資産/流動負債 (%)
利用目的 (1年以内の)短期的負債の支払をカバーできる運転資金の状態をみる
目安/基準値 (全産業)170~300% 
(製造業)190~300% 
(サービス業)220~350%
評価ポイント 100%を超える割合が流動負債を支払ったあとの余剰資金となる。
流動資産を増やす(固定資産から移す)、または流動負債を減らすと改善する。
特に金融機関や取引先が重視する。
資金繰りやキャッシュフローに課題を持つ経営者は特に重視したい指標。

ポイント2 当座比率をみる・・・事業継続のためにと重要な値

算出式 当座資産/流動負債 (%)
注)当座資産:流動資産のなかでも、すぐに現金に換えられるもの、
現金、預金、売掛金など
利用目的 1年以内の)短期的負債に対する支払能力をみる
目安/基準値 (全産業)130~240% 
(製造業)140~250% 
(サービス業)190~320%
評価ポイント 100%を超える割合が流動負債を支払ったあとの余剰資金となる。
当座資産を増やす(固定資産、流動資産から移す)、または流動負債を減らすと改善する。
特に金融機関や取引先が重視する。
資金繰りやキャッシュフローに課題を持つ経営者は特に重視したい指標。

ポイント3 自己資本比率をみる

算出式 自己資本/総資産 (%)
利用目的 総資産に対する自己資本の割合をみる
目安/基準値 (全産業)40~60% 
(製造業)40~65% 
(サービス業)45~70%
評価ポイント 資産を減らす、負債を減らす、または自己資本を増やすと改善する。
特に金融機関や取引先が重視する。

注意

  • 「目安/基準値」にはTKC経営指標(税理士・会計士の関与先企業実績値)を参考値として記載しています。URL:http://www.tkc.jp/tkcnf/bast/
  • 算出式で、*を付けた項目は貸借対照表から入手される値です。

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キャッシュフロー計算書の見るべき4つのポイント

キャッシュフローとは

キャッシュフローとは、ある一定期間におけるキャッシュの増減のことです。

「いつ、どこからキャッシュが入ってきて、いつ、どこへ出て行ったか」という誰もが同じように認識できる現物の流れです。

キャッシュフロー計算書の役割は、資金の流れ、収支を見えるようにすることで、損益計算書や貸借対照表では読み取れない実態を把握することです。

損益計算書で扱う利益や損失は、個別の会計ルールや会計処理方法によって数値が変化します。

これは、現物とは関係なく、帳簿にどのように記載するかという解釈が一つだけではないからです。

キャッシュフロー計算書では、

  • 営業活動によるキャッシュフロー
  • 投資活動によるキャッシュフロー
  • 財務活動によるキャッシュフロー

の3つに区分して表示されます。

営業活動によるキャッシュフロー ・・・「儲けたお金」を明らかにしたもの

会社の本業(主要な事業活動)によるキャッシュの増減を表します。
会社の本業(事業)により生じたキャッシュの流れ、増減

投資活動によるキャッシュフロー ・・・「使ったお金」を明らかにしたもの

設備投資(工場建設・機械購入など)や資金の運用(企業買収・有価証券購入など)によるキャッシュの増減を表します。
既存事業や新規事業のための設備投資、債権購入などのキャッシュの流れ、増減

財務活動によるキャッシュフロー ・・・「借りたお金、返したお金」を明らかにしたもの

資金調達(借入)や借入金返済などによるキャッシュの増減を表します。
営業活動と投資活動によって生じたお金の過不足を調整します。
借入と返済、増資・社債などの資金調達、配当金の支払などによるキャッシュの流れ、増減

以上の3つに加えて、営業キャッシュフローと投資キャッシュフローの合計したものを「フリーキャッシュフロー」と呼び、経営判断の材料などに活用されます。

フリーキャッシュフローとは

営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを引いた残りで、営業活動で稼いだキャッシュを投資キャッシュフローで使ってもなお残るキャッシュのことを指します。

これが多い会社は経営状態が健全であるとみなされます。ただ、投資を減らせばフリーキャッシュフローは増えるので将来の投資に向けた余剰資金といえます。

キャッシュフロー計算書の主な4つのポイント

キャッシュフロー計算書には

  • 営業
  • 投資
  • 財務

の3種類があるので、その値がプラスかマイナスかの組み合わせは8通りです。

それぞれのパターンがどのような状況を表しているかを知っていれば、経営状態を大まかに読み取ることができます。

ポイント1 営業活動によるキャッシュフロー

  • プラスになっていることが大前提、額が大きいほど良い
  • 同業界、リーディング企業と比較してどうかをみる
  • 事業立ち上げ時期は一時的にマイナスになることもあるが、その場合はプラスに転じるまでの事業計画を評価する

ポイント2 投資活動によるキャッシュフロー

  • 営業活動によるキャッシュフローを超えていないか、超えている場合は投資対効果の計画を評価する
  • 将来の投資は必要なのでマイナスである方が健全といえる

ポイント3 財務活動によるキャッシュフロー

  • プラスの場合は資金不足ということ、必要に応じて調達計画を見直す
  • マイナスの場合は借金を返済しているので好ましい状態

ポイント4 フリーキャッシュフロー

  • プラスになっていることが大前提、額が大きいほど良い、金融機関や投資家も重視する
  • 使い道はどうか、「事業への投資」、「株主への配当金支払」、「借入金の返済」など、何に使ったかによって経営の方向性が見える

(8通りの分類と経営状態)

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目指したい姿とは、事業でキャッシュを稼いで、借金に頼らずにその稼いだキャッシュで既存や将来の投資を行うことです。

先の分類でいうと、④(”営業+投資-財務-”の組み合わせ)に該当します。

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ただ、新規事業の立ち上げ時などによっては、財務キャッシュフローがプラスの時期もあり得ます。

キャッシュフローで最も重要なポイントは、営業キャッシュフローがプラスであることです。

これは当たり前のことで、(帳簿上はどうあれ)キャッシュを生まない事業は、その存在意義が問われてしまいます。

損益計算書の利益額を増やすことと同様に営業活動でキャッシュを積み上げることが経営の大きな目標になります。

キャッシュフローの目指すべき状態

  • 営業キャッシュフローとフリーキャッシュフローの総額が多いこと(もちろんプラスになっていること)
  • 投資活動キャッシュフローがマイナスであること
  • 前期(過去数年)および同業他社に比べて、営業キャッシュフローと フリーキャッシュフローが増えている(多い)こと

まず大枠では、この3点だけです。以上の状態を図式化すると以下のようになります。

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さらに見ておきたい4つのポイント

ポイント1 売上債権の額・・・大きくないか

せっかく売る上げたのにキャッシュを獲得できていない状態・・・売掛金の管理・回収がうまくいっていないのでは?

ポイント2 棚卸資産の額・・・大きくないか

在庫が増えてキャッシュに換えられていない状態・・・売れないものをつくって(仕入れて)いないか?仕入・製造・在庫は適正か?

ポイント3 有形固定資産の取得額・・・妥当か、少なくないか

これがマイナスでないと現在および将来の成長のために必要な投資をしていないということや売却による収入が増えていたら、単に資金調達のために必要な資産を売却していないかを見る

ポイント4 短期借入による収入額・・・多くないか

短期に返済が必要となる借入金なので、その分短期にキャッシュが必要になる・・・キャッシュインの可能性を踏まえたものか?

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売上粗利年計表から業績の傾向をより的確につかむ

経営状態を知るには絶対額だけではなく、傾向を見るようにしましょう。

たとえば、月別の売上は通常季節や決算時期など様々な要因で変動します。

実はこのことが事業の実態はつかみにくいものにしています。ここでは傾向をつかむのに有効な帳票である「年計表」を紹介します。

年計表は、1年間の売上や利益実績を1ヶ月ずつ移動して累計する方法です。

当月では、過去1年間の累計を出し、次月ではその月からまた過去1年間の累計を出していきます。

つまり、1ヶ月ずつずらして累計を出していきます。このように累計していくことにより、季節変動を吸収してくれるので、傾向をつかむ事ができます。

年計表は、業績の傾向と景気変動の転換点をいち早く教えてくれます。

多くの企業では四半期決算で前年同期と比較をしますが、これを毎月行うようなものです。つまり、毎月(月次)決算をしていることになります。

年計表は、実に多くのことが読み取れる優れた帳票(グラフ)です。

たとえば、

  • 顧客別データを使えば離反の転換点を知ることができる
  • 商品別データではそのライフサイクルがわかる
  • グラフ化すれば異常値も見つけやすくなる

しかも、作成に当たって、特別な入力データは必要ありません。実際にはあまり使われていないようですが、おそらく決算では要求されないという理由によるものと想像します。
  

(年計表サンプル)

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   (引用元:アサンテ経営労務事務所 www.max.hi-ho.ne.jp

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事業の本当の資産価値をつかむ(投資、M&A、清算・売却の検討材料)

本章では少し視点を変えて、会社(事業)の資産価値について紹介します。

資産売却やM&Aを検討している経営者、及び投資や金銭的取引を検討している投資家、金融機関の方向けの情報になります。

企業価値評価の方法

会社(事業)の本当の価値はどれくらいだろう?

ビジネスオーナーは当然知っておきたい情報でしょう。そして、投資家やビジネスパートナーにとっても関心が高いと思われます。

企業評価の方法にはいくつかの考え方があり、絶対的な方法というものは存在しません。

多く採用されている※DCF(ディスカウントキャッシュフロー)法などについても、そもそも具体的かつ納得感のある事業計画が前提で、特に中小企業の企業評価では使いづらいものです。

ここでは中小企業も含めて最もよく使われるシンプルな算出式である※時価純資産額方式を紹介します。

DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)とは

企業が有する事業用資産(及び負債)によって将来発生すると考えられる各年度の将来キャッシュフロー(フリー・キャッシュフローなど)を、一定の割引率をもって現在価値に引き直し、当該現在価値をもって事業用資産(負債)の評価額とする方法。将来キャッシュフローの妥当性は、経営計画や環境分析などから多角的に検討する。

時価純資産額方式とは

会社の資産及び負債を時価評価することにより、評価基準日における純資産価値を算出し、それをもって企業価値の評価額とする方法。将来の収益力を加味しない。

算出式: 評価額 = 時価総資産+営業権(のれん=実質利益×評価倍率)

時価総資産とは

  • 貸借対照表の資産・負債項目を時価に計算しなおした純資産
  • 有価証券は時価会計により適宜見直しがなされているが、固定資産は取得原価主義のもと帳簿価格のまま(特に不動産などでは含み益や含み損が発生しているケースが多い)・・・これを実勢評価する
  • 売掛金のうち回収不能の可能性が高いものは評価減する
  • 在庫のうち不良在庫は評価減する
  • 退職金給付(賞与)引当金を計上していない場合は債務として計上する

実質利益とは

損益計算書上の利益額とともに、役員報酬や節税対策(利益の繰り延べ、金融商品を購入)を加味して実際の利益を評価する

評価倍率とは

対象とする会社(事業)の収益性、将来性により変動します。近年では実質利益の1~3倍(1年~3年分)が相場のようです。

赤字の会社や、業種によっては、”のれん”がゼロ(またはマイナス)ということもある。

会社の解散・清算とM&A(Mergers and Acquisitions)

会社を”解散”するということは、その法人格が消滅するということで、”清算”とは、解散後に残された債権、債務、残余財産の分配などについて、法律関係の手続き(後始末)を行うことです。

ここでは、会社を「解散・清算」することに近い選択肢となる”M&A”について紹介します。

M&Aとは、そのまま訳すと企業の合併と買収を意味しますが、単に合併・買収だけでなく、株式譲渡・新株引受・株式交換、事業譲渡、提携など様々な形態があります。

対象単位は会社そのものだけでなく、

  • 特定の事業(部門)
  • 営業権
  • 知的所有権

などの選択も可能です。

最近では後継者不在に伴う事業継承の手段として、中小企業のM&Aも年々増加傾向にあるようです。

M&Aの形態を大きく2つに分けると、資本移動をともなう場合と、ともなわない場合に分けられます。

  • 資本移動を伴う場合:買収、株式の持合い、合弁会社の設立
  • 資本移動を伴わない場合:共同開発、OEM提携、販売提携

解散・精算した場合とM&Aの違いとは

では、事業の価値評価に際して、「解散・清算」した場合と「M&A」の場合でどのような違いがでてくるでしょう?

一般的に清算する場合と比較して、M&Aを実施して売却する方が株主の手取額が大きくなります。

清算の場合、資産の処分価格は低く抑えられるとともに、会社の資産処分と株主への配当に対して二重の税負担が必要になり、残された手取金額が少なくなりがちです。

M&Aによる株式譲渡は事業継続を前提とすることが多く、清算の場合と比較して評価額そのものが高くなる。

株式譲渡であれば譲渡益に対する20%の税金だけで済むが(株主が個人の場合)、廃業・清算の場合は、会社の残余財産にまず約40%の法人税等がかかり、さらに個人の配当所得に対する税金で最大約47%を負担することになる。

このように税負担を考えると、M&Aという選択肢は十分考慮すべきものとなります。

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おさえておくべき分析指標の5つの視点

ここでは以下5つの視点での主な分析指標を紹介します。

これら視点はいずれも相関関係にありますので、一つだけを取り上げるのではなく複数を見比べて評価します。

また、多くの指標が存在しますので、個別の課題や環境に合わせて注力するものを検討します。

なお、既に紹介しているものも含めて列挙しているので参照してください。

  1. 収益性をみる、儲かっているか?
  2. 安全性をみる、事業に余裕はあるか?
  3. 効率性をみる、事業のスピードはどうか?
  4. 生産性をみる、投入資源の活用度はどうか?
  5. 成長性をみる、事業は伸びているか?

注意

  • 「目安/基準値」にはTKC経営指標(税理士・会計士の関与先企業実績値)を参考値として記載しています。URL:http://www.tkc.jp/tkcnf/bast/
  • 算出式で、*を付けた項目は貸借対照表から入手される値です。

視点その1 収益性をみる、儲かっているか?

収益性は儲ける力をみる指標です。効率よく利益を生み出したかを計るものです。

■総資本経常利益率

算出式 経常利益/*総資本 (%)
利用目的 投下している総資本に対して、通常でどれだけの利益を上げたかをみる
目安/基準値 12~15%以上
評価ポイント 資本を増やさずに利益額を増やす、使った資本以上に売上額を増やすと改善する。
利益に繋がるように資金を使えているかという指標で、特に株主など出資者が重視する。

■売上総利益率

算出式 売上総利益/売上高 (%)
利用目的 すべての利益の源である粗利益の獲得力をみる
目安/基準値 (全産業)28~33% 
(製造業)21~26% 
(サービス業)44~52%
評価ポイント

販売費及び一般管理費を除く原価率を示す、原価の多い製造業は低い、販売費の多いサービス業は高い。
より多くの数を売る、または原価を下げると改善する。
製造機能を持たない(原価率の低い)業種ではあまり参考にならない
特に製造業・生産部門で管理したい指標。

■売上高営業利益率

算出式 営業利益/売上高 (%)
利用目的 粗利益から販売費及び一般管理費を差引いた本業の儲ける力をみる
目安/基準値 (全産業)3~8% 
(製造業)4~10% 
(サービス業)3~7%
評価ポイント より多くの数を売る、または原価や販管費等の本業に関わる経費を削減すると改善する。
全業種において事業(本業)の利益率をみる一般的な指標で多くの関係者が参照する。

■売上高経常利益率

算出式 経常利益/売上高 (%)
利用目的 通常の企業活動全体から生み出される利益の獲得力をみる
目安/基準値

(全産業)3~8% 
(製造業)4~11% 
(サービス業)4~9%

評価ポイント

より多くの数を売る、または原価や販管費等の本業に関わる経費を削減すると改善する。
営業外収益である財務活動の金利・利息の見直しも有効(支払う金利は少なく、受け取る利息は多く)。
全業種において本業以外も含めた企業活動の利益率をみる一般的な指標で、金融機関をはじめ多くの関係者が参照する。

■総資産回転率

算出式 売上高/*総資産 (回)
利用目的 一年間で総資産の何倍の売上高を上げたかをみる
目安/基準値 1.2~2.0回
評価ポイント 売上高を増やすか、負債(資産)を減らすと改善する。
売上に繋がるように資産を使えているかという指標で、特に株主など出資者が重視する。

■インタレスト・カバレッジ・レシオ

算出式 営業利益+受取利息)/(支払利息・割引料) (倍)
利用目的 金融費用(支払利息と割引料)の何倍の事業利益を上げているのかをみる
目安/基準値 (全産業)3~10倍以上
評価ポイント 金融費用(支払利息他)を減らす、営業利益及び受取利息を増やすと値が改善する。
1倍以下の会計期間が続くと金融機関からの借入が困難になる。

 

視点その2 安全性をみる、事業に余裕はあるか?

安全性は支払能力や事業を維持する力をみる指標です。特に費用の構造を表していることが多く、主に貸借対照表の値から読みとることができます。

■流動比率

算出式 *流動資産/*流動負債 (%)
利用目的 (1年以内の)短期的負債の支払をカバーできる運転資金の状態をみる
目安/基準値 (全産業)170~300% 
(製造業)190~300% 
(サービス業)220~350%
評価ポイント 100%を超える割合が流動負債を支払ったあとの余剰資金となる。
流動資産を増やす(固定資産から移す)、または流動負債を減らすと改善する。
特に金銭的な取り引きをおこなう金融機関や取引先が重視する。資金繰りやキャッシュフローに課題を持つ経営者は特に重視したい指標。

■当座比率

算出式 *当座資産/*流動負債 (%)
注)当座資産:流動資産のなかでも、すぐに現金に換えられるもの、現金、預金、売掛金など
利用目的 (1年以内の)短期的負債に対する支払能力をみる
目安/基準値 (全産業)130~240% 
(製造業)140~250% 
(サービス業)190~320%
評価ポイント 100%を超える割合が流動負債を支払ったあとの余剰資金となる。
当座資産を増やす(固定資産、流動資産から移す)、または流動負債を減らすと改善する。
特に金銭的な取り引きをおこなう金融機関や取引先が重視する。
資金繰りやキャッシュフローに課題を持つ経営者は特に重視したい指標。

■固定比率

算出式 *固定資産/*自己資本 (%)
利用目的 自己資本に対する固定資産の割合をみる
目安/基準値 110~55%
評価ポイント 固定資産を自己資本でまかなえているか、少なくとも100%以内に抑えたい。
値は小さい方が良い、固定資産を減らす、または自己資本を増やすと改善する。
特に金銭的な取り引きをおこなう金融機関や取引先が重視する。

■固定長期適合率

算出式 *固定資産/(*自己資本+*固定負債) (%)
利用目的 固定資産を購入するための資金をどこから調達したかをみる(すぐに返さないといけない負債をあてていないか)
目安/基準値 65~45%
評価ポイント

固定資産を減らす、自己資本(または固定負債)を増やすと改善する。
特に金銭的な取り引きをおこなう金融機関や取引先が重視する。

■自己資本比率

算出式 *自己資本/*総資産 (%)
利用目的 総資産に対する自己資本の割合をみる
目安/基準値 (全産業)40~60% 
(製造業)40~65%
(サービス業)45~70%
評価ポイント 資産を減らす、負債を減らす、または自己資本を増やすと改善する。
特に金融機関や取引先が重視する。

■負債比率

算出式 *総負債/*自己資本 (%)
利用目的 自己資本に対する負債総額の割合をみる
目安/基準値 (全産業)1.0~0.2倍 
(製造業)0.9~0.2倍 
(サービス業) 0.7~0.2倍
評価ポイント 負債を減らす、または自己資本を増やすと改善する。
特に金融機関や取引先が重視する。

■損益分岐点比率

算出式 損益分岐点売上高/売上高 (%)
注) 損益分岐点売上高 :固定費を回収するために必要な売上高、この売上がないと赤字になるという額
利用目的 固定費を回収するためにどれくらいの売上高が必要かをみる
目安/基準値 (全産業)90~80% 
(製造業)90~80% 
(サービス業)93~88%
評価ポイント 損益分岐点売上高を算出するには費用を変動費と固定費に分ける必要がある(財務会計では求められていない)。
この割合まで売上が無いと赤字になるという目安。
値は低い方がより早く黒字化に向かう、ただし固定費と変動費の割合が異なる場合(業界・業態)は単純に比較できない。
値が高くても、この損益分岐点以降に利益獲得率が高まる場合もあるので、一概に評価できない。
固定費を減らすと値は低くなる、特に、同業種や自社の過去実績と比較したい。

■経営安定率

算出式 1-(損益分岐点売上高/売上高) (%)
利用目的 限界利益を100%としたときの経常利益の割合、限界利益が何%減少したら赤字になるのかがわかる
注) 限界利益=売上-変動費
目安/基準値 (全産業)8~18% 
(製造業)10~22% 
(サービス業)6~12%
評価ポイント 赤字に至るまでの危険度合いをみる、 損益分岐点売上高が大きいほど値は大きくなる。
値は高いほうが良い(余裕がある)、上記の損益分岐点比率と同じ意味合いを持つ。

 

視点その3 効率性をみる、事業のスピードはどうか?

効率性は投入した資源に対する成果の達成度合いをみる指標です。資源を回収する事業スピートを評価することができます。

■総資産利益率 ROA

算出式 当期純利益/*総資産 (%)
利用目的 事業に投下されている資産が利益をどれだけ獲得したかをみる
目安/基準値 4~11%
評価ポイント 純利益を増やす、または総資産を減らすと値は高くなる。
純利益を増やすことは企業全体の活動に関連するので広範囲な取り組みが必要になる。
特に株主など出資者が重視する指標といえる。

■株主資本利益率 ROE

算出式 当期純利益/*自己資本 (%)
利用目的 事業に投下されている自己資本が利益獲得にどれほど貢献したかをみる
目安/基準値 10~18%
評価ポイント 純利益を増やすまたは自己資本を減らすと値は高くなる。
純利益を増やすことは企業全体の活動に関連するので広範囲な取り組みが必要になる。
自己資本を減らすことは、総資産の枠を変えない前提では負債を増やすことになり注意が必要。
特に事業の安全性を重視する金融機関や損保業界、さらに株主など出資者が重視する指標。

■売上債権回転期間

算出式 (受取手形+売掛金)/(売上高×365) (日)
利用目的 商品を販売してから売上債権を回収するまでにかかる期間(日数)をみる
目安/基準値 (全産業)49~46日 
(製造業)72~70日 
(サービス業)43~42日
評価ポイント 改善に向けては、検収・請求・入金スケジュールを短くする、売掛金の回収に関わる管理業務を強化する。
仮に買掛金の回転期間より長期であれば現金が必要になる。
資金繰りやキャッシュフローに課題を持つ経営者は特に重視したい指標。

■在庫回転期間

算出式 *在庫/(売上高×365) (日)
利用目的 在庫が売上原価の何日分あるかをみる
目安/基準値 (全産業)26~18日 
(製造業)35~27日 
(サービス業) 7~5日
評価ポイント 在庫がどれくらいの期間で売れたかという日数。
改善に向けては、需要と供給を同期させて、売れる(売れた)ものを効率よく生産し、出荷することが求められる。
生産部門だけでなく営業部門と協業して管理・改善していく指標。
また、在庫は売れて初めてキャッシュを生むものであり、資金繰りやキャッシュフローに課題を持つ経営者は特に重視したい。

 

視点その4 生産性をみる、投入資源の活用度はどうか?

生産性は、投入した資源当たりの成果の度合いをみる指標です。収益性の指標と似ていますが、生産性では投入した資本ではなく、「人やモノ」の視点で分析します。

■限界利益率

算出式 限界利益/売上高 (%)
注) 限界利益=売上-変動費
利用目的 売上高に対する原価効率をみる
目安/基準値

(製造業)40~50% 
(サービス業)60~80%

評価ポイント 限界利益を算出するには費用を変動費と固定費に分ける必要がある(財務会計では求められていない)。
売上から変動費(材料費など)を差し引いた正味売上の割合。
値は高い方がより早く固定費を回収する、ただし固定費と変動費の割合が異なる場合(業界・業態)は単純に比較できない。
変動費を減らすと値は高くなる。

■付加価値比率

算出式 (売上高-外部購入価値)/売上高 (%)
注)外部購入価値:材料費、外注費など
利用目的 売上高に対して自社でどれくらいの付加価値を生み出したかをみる
目安/基準値 (全産業)41~47% 
(製造業)46~51% 
(サービス業)63~70%
評価ポイント

売上から外部購入価値を差し引いた割合、自社でどれくらいの付加価値を生み出したかがわかる。
値は高い方がより良い、ただし内製化率など業界・業態によって異なるので単純に比較できない。
外部購入価値を減らす、内製化率を高めると値は高くなる。

■1人当り売上高

算出式 売上高/従業員数 (円)
利用目的 従業員1人当りの生産性をみる
目安/基準値 業種・業態や機械化の度合い、その他環境により異なる
評価ポイント 他社との比較が難しいので、自社事業と同じ環境、同じ前提の基での推移をみる。
人件費を減らす(生産性を上げる)、売上効率を高めると値は改善する。

■1人当り付加価値

算出式 付加価値/従業員数 (円)
利用目的 従業員1人当りの生産性をみる
目安/基準値 (全産業)62~83万円 
(製造業)67~83万円 
(サービス業)41~73万円
評価ポイント 自社1人あたりでどれくらいの付加価値を生み出したかがわかる。
値は高い方がより良い、ただし内製化率など業界・業態によって異なるので単純に比較できない。
生産性を上げる、売上効率を高める、外部購入価値を減らす、内製化率を高めると値は高くなる。

■労働分配率

算出式 人件費/限界利益 (%)
利用目的 従業員の生産効率に対する人件費のバランスをみる
目安/基準値 (全産業)53~50% 
(製造業)53~47% 
(サービス業)63~58% →40%以下が望ましい
評価ポイント 売上から変動費を差し引いた限界利益(固定費+経常利益)あたり、人件費にどれくらいの割合で費用がかかっているかをみる。
事業の特性によるので低いほど良いともいえない、ただ値が高いと人件費が重荷になっているかもしれない。
固定費と変動費の割合が異なる場合(業界・業態)は単純に比較できない。
限界利益を増やす、人件費を減らす(生産性を上げる)、売上効率を高めると値は低くなる。

 

視点その5 成長性をみる、事業は伸びているか?

成長性は過去と比べた伸び率を時系列にみる指標です。成長率同士を比較することも有効です。

■売上高成長率

算出式 (当期売上高-前期売上高)/前期売上高 (%)
利用目的 前期に比べて売上高がどれくらいの比率で伸びたかをみる
目安/基準値 同業界やリーディング企業の値を参照する
評価ポイント 業界自体の成長性にも依存するので、自社の過去実績よりも同業界・競業企業の値と比較する。

■営業利益率成長率

算出式: (当期営業利益-前期営業利益)/前期営業利益 (%)
利用目的 前期に比べて営業利益がどれくらいの比率で伸びたかをみる
目安/基準値 同業界やリーディング企業、及び自社の過去実績値を参照する
評価ポイント より多くの数を売る、または原価や販管費等の本業に関わる経費を削減すると改善する。
業界環境に依存するので、同業界・競業企業などの対外的な値も参照する。

■経常利益率成長率

算出式 (当期経常利益-前期経常利益)/前期経常利益 (%)
利用目的 前期に比べて経常利益がどれくらいの比率で伸びたかをみる
目安/基準値 同業界やリーディング企業、及び自社の過去実績値を参照する
評価ポイント より多くの数を売る、または原価や販管費等の本業に関わる経費を削減すると改善する。
営業外収益である財務活動の金利・利息の見直しによる収益改善も有効。
業界環境に依存するので、同業界・競業企業などの対外的な値も参照する。

■各指標の成長率

算出式 (当期指標-前期指標)/前期指標 (%)
利用目的 前期に比べて該当の指標がどれくらい伸びたかをみる
目安/基準値 同業界やリーディング企業の値を参照する
評価ポイント

各指標の伸び率を比較することで、どのような要素が成長しているか、または、伸び悩んでいるかをみる。
本業の成長率を重視する考え方では、営業利益率成長率が他の指標を上回っている方が望ましい。

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分析結果を経営改善に活用する

財務諸表は財務会計の規則に基づいて作成された、主に投資家などの外部利害関係者に向けた報告書です。

よって、経営者や事業責任者が経営改善に活用する際にはいくつか考慮することが必要になります。

財務会計に基づく計算書類の特性及び考慮点

  • 通常は年度末の1年に一度(または四半期に一度)だけしか作成されない
  • 経営活動の結果の合計数値だけである
  • 活動過程や部門毎の業績は提供されない
  • 各部署別に赤字か黒字かを示す損益分岐点売上高が分からない
  • 売上計上したものだけを対象とするため実際の原価率がわからない(売れ残ったモノに使った費用を除いている)
  • 原価が変動費と固定費とに区分されていない
  • 原価を計算する際、どの製品にもかかる間接費を配賦する基準が曖昧である(間接費をどのように割り振るか、負担させるかによって、製品毎の原価が変わってしまう、つまり利益率が変わってしまう)
  • 財務会計原則で決められた規程に基づいて作成されるので、経理担当者以外では理解が難しい

損益計算書をはじめとした決算書類は、経営改善に役立つ情報を提供してくれます。

ただし、上記のような性質を踏まえて、より将来に向けた改善・改革のためには管理会計方式の視点から分析することが有効です。

経営改善にあたって特に重視したいこと

  • 会社・事業の継続性・安定性→つぶれたら終わりです
     キャッシュフロー、流動資産、
  • 会社・事業の収益性・生産性→儲けることが目的です
     営業利益、限界利益、付加価値
  • 会社・事業の実態を把握する→経営判断のスピードを上げる
     時価会計、月次決算、キャッシュフロー

まとめ

財務諸表の説明をさせて頂きましたが、ご理解いただけましたでしょうか。

仕組みだけでなく、チェックポイントもおわかり頂けたかと思います。財務諸表は会社の今の状況を把握するためにも重要な書類です。

是非自社の財務諸表をチェックして活用をしてみてください。

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