起業家・経営者が知っておきたい法人税の計算方法とは?
これから起業する方や、個人事業主から法人成りを考えている方、会社経営をしていて法人税のことについて勉強しておきたい経営者の方は多いと思います。
それは事業をしていく中で、法人税を初めとする税金の問題は起業家、経営者にとって大きなものだからです。
- 起業家が「起業したらどのくらい税金を払うか?」
- 個人事業主の方が「法人化したら法人税はどのくらい払うのか?」
- 経営者が「利益を出したいけれど、法人税などもどのくらい上がるのか?」
など詳しく知りたいという人も多いのではないでしょうか。
ぜひ「法人税」および「法人税の計算方法」について知りたい方は、お役立てください。
Contents
法人税とは何か?
法人と言う言葉は様々なところで使われるので「全く聞いたことが無い」と言うことは無いとは思います。
しかし、「法人とは何か?」と具体的に考えると曖昧な部分も多いかもしれません。
そして法人税はその「法人」にかかる税金です。
そもそも「法人」とは?
法人とは、「自然人(個人)以外で会社法などの法律によって認められ権利と義務などが発生する人」です。
例えば、株式会社は自然人(個人)ではないですが法人であり様々な権利と義務が発生します。
法人の種類はたくさんあります。
会社法では
- 「株式会社」
- 「合同会社」
- 「合名会社」
- 「合資会社」
などがあります。
なお有限会社も法人ですが、商法の時代には新規設立出来ましたが、平成18年の会社法施行以降は資金設立が出来ません。
しかし商法の時代に設立した有限会社は法人として、そのまま存続しています。
「NPO法人(特定非営利活動法人)」は「特定非営利活動に関する法律」に従って、都道府県知事または政令指定市の市長による認証を経て設立される法人です。
一般社団法人と一般財団法人は「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」によって設立された法人です。
これらは事業目的に公益性がなくても設立することが出来て都道府県知事または政令指定市の市長による認証も不要です。
その他にも、
- 医療法人
- 学校法人
- 監査法人
など様々な法人があります。
これから起業する方や個人事業主で法人成りを考えているのであれば、自分の目的や条件に合った法人にする必要があります。
そのためにもしっかりとそれぞれの法人の設立の条件や特徴、メリット、デメリットなどは押さえておきましょう。
「法人」が納める「法人税」とは何か?
通常、自然人(個人)が所得のある場合は、所得税などを納めることになります。
法人も権利だけでなく義務も負います。つまり税金を納める必要があるのです。
法人税は「法人税法」に基づいて納めることになります。
法人税を厳密にいうとこの国税のみを言いますが、法人にかかる税金としては地方税もあります。
個人に住民税がかかるように都道府県や市町村の法人住民税が法人にもかかります。
また都道府県に納める法人事業税もかかります。
「法人税」と言う場合、国税の法人税のみをさす場合もあれば、地方税の法人住民税と法人事業税も含めてさす場合もあります。
なおその場合は「法人税等」と表現することもあります。
個人事業主と法人の税金と違いとは?
法人を設立(会社を設立)する時には、定款の作成や設立登記などにお金がかかります。
しかし個人事業主であれば開業届けを提出するだけです。
そして税金です。税金を支払うこと自体は個人事業主でも法人でも同様です。
しかし法人の方が税金を納めるための計算(財務諸表を作成し決算書を完成させるなど)が複雑化します。
個人事業主であれば自分で作成できる程度かもしれませんが、法人になると税理士に依頼しないと作成が間に合わないということも出てきます。
このように税金は財務諸表を作成し決算を行って、計算、申告し、納税を行います。
決算日がいつなのか?と言う点は納税する時には大きく影響していきます。
個人事業主の場合は、決算期間は1月1日~12月31日と一律で決まっていますので、決算日は自動的に全員が12月31日になります。
そして確定申告が3月15日までになり所得税の納税も行います。
なお消費税は3月31日までの申告、納税になります。
これも土日などによって数日の差はありますが、すべての個人事業主は統一されています。
それに対して法人化している法人の場合は「決算日より2カ月以内」となっています。
法人税、消費税の申告、納付としては個人事業主の場合(3月15日と3月31日まで)に比べて短くなっている(2カ月以内)というデメリットはあります。
しかし、法人の場合は決算日を任意で設定(自由に設定)できます。
例えば、3月に申告や納税をすると年度末で繁忙期に重なるので避けたいのであれば、「8月決算、10月申告、納付」と言うことも出来るのです。
税金のことだけを考えて決算日を決めることはないですが、決算処理の時期を考慮に入れて決算日を決める企業も多いのです。
法人税の計算方法の基本とは?
基本としての法人税の計算式は
【法人税=所得額×法人税の税率】
となります。
では、税率はいくらくらいなのかと言う点が気になると思います。
ここ数年法人税の動きが早すぎて分かりにくくなっていますが、平成29年4月1日以降平成30年3月31日までに始まる事業年度の場合は、基本が23.4%となっています。さらに平成30年4月1日以降に始まる事業年度の場合は基本が23.2%になります。
また中小法人など(資本金が1億円以下の法人など)で所得額が800万円以下の部分については基本より低い税率となっています。
※上記のように改正が多いので、時期や対象となる法人の種類などによって細かく法人税率が違いますので、具体的に知りたい方は国税庁のホームページも参照してみてください。
国税庁ホームページ⇒ https://www.nta.go.jp/index.htm
なお、法人税等でなく地方税も含めた税率を実効税率と言います。
地方税も含めて考えるので会社のある地域によって違いはありますが、中小企業の場合34~35%前後と言われています。(所得金額が800万円超の部分)
※所得金額800万円以下の部分は20%前半の実効税率と言われています。
法人税の計算する際の所得額の計算の仕組みとは?
法人税は前章で説明したように「所得額に税率(法人税率または実効税率)を掛けた結果」で計算出来ます。
税率はその時の税法によって変わります。
では、法人税計算の基になる「所得金額」とは何なのでしょうか?
「所得」と言うイメージから「売上だろう」とか「顧客から入金された金額だろう」と思われる方もいるかもしれません。
しかし法人税の計算で使用する所得金額は売上や入金額とはイコールにはなりません。
課税所得額とは何か?
では「課税所得額」とは何なのでしょうか?売上や入金額ではないとするとどのように計算していくのでしょうか?
計算としては「益金から損金を引きたもの」となり、計算式は「課税所得額=益金―損金」となります。
※参照:法人税法22条
税法などに詳しくないと益金や損金と言う言葉自体を知らない方もいると思います。
大まかなイメージでいうと
- 「売上から掛かった原価や費用を引いたもの」
- 「収益から費用をひいたもの」
と言えます。
この会計上の計算と税法上の計算の結果は大きな部分ではかなり近い数字になります。
しかし会計では「ステークホルダー(利害関係者)に対して会社の経営成績や財務状態を伝える事」を目的にしているのに対して税法では「公平な課税」などが目的になっています。
よって会計上の計算と税法の計算では若干の違いが出てきます。
具体的には会計上の計算と税法の計算を別々に行うのではなく、会計上の計算をした後に、税法で対象になるものをプラスして、対象にならないものをマイナスしていくことになります。
※後の「益金」「損金」のそれぞれの節で具体的に説明していきます。
このように見ていくと、税金を低くしたいのであれば所得金額を減らせば良いことになります。
計算式から考えると「益金を減らす」か「損金を増やす」と所得金額が減り、その結果税金も減ります。
益金を減らすのはなかなか考えにくいので、通常は損金を増やすことを考えるかもしれません。
しかし上記のように税法によって損金に入れることが出来るものはしっかりと決められています。
このように益金や損金がどのようなものか(またはどのようなものが入れるべきで、どのようなものは入れなくてもよいのか)などを知っていることで所得金額(=税額)が計算できるようになるのです。
「益金」の計算方法とは?
税法上の「益金」は会計上の「収益」と考え方は近いですが、厳密には違いがあります。
「益金」は法人税法にて「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする」とされているので、収益にプラスマイナスをしなければ「益金」は計算できません。
※参照:法人税法第22条2項
計算としては、会計上で「収益」を求めた後、益金に入るものを計算(益金参入)することと、益金から除くものを計算(益金不算入)していきます。
益金に不算入の例としては、「受取配当金」や「法人税等の還付」などがあります。
「損金」の計算方法とは?
損金については法人税法では以下のようになっています。
「3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」
参照:法人税法第22条3項
「益金」と同様に「損金」も会計上の費用にプラスマイナスすることになります。
会計上の費用ではなくても損金にすることを「損金算入」と言い、費用であるけれど損金ではないものを「損金不算入」と言います。
損金算入の例としては「青色申告事業年度の繰越欠損金」などがあります。
損金不算入の例としては
- 「法人税法で認められていない部分の交際費等」
- 「租税公課(法人税や法人住民税等)」
です。
この部分が「損金が増えるかどうか=税金が減らすことが出来るかどうか」に大きく関わってきます。
納税者(法人)としてはなるべく納税を減らしたいという考えの方も多くいます。
これらの方が不正をして納税を減らそうとしないように(公平な課税のために)しっかりとした決まりになっております。
法人税の実際の実務とは?
法人税等の実務は経理担当者や財務担当者が行うかもしれませんが、いつ支払わなければならないかは経営者として知っておくべきだと思います。
法人税の申告期間は?
法人税の申告期限は「事業年度終了の日(決算日)から2カ月以内」となっています。
個人事業主と法人の大きな違いがこの点です。
個人事業主の場合は、確定申告はすべての人が一律(通常3月15日)です。
しかし法人の場合は決算日を会社ごとに決めることが出来るので申告期限も会社ごとに違うことになります。
例えば、
- 「3月決算の会社であれば2カ月後の5月末まで」
- 「9月決算の会社であれば11月末まで」
となります。
また法人税には「申告期限の延長の特例」と言う制度があります。
この特例を使うと申告期限を例えば、「事業年度終了の日(決算日)から3カ月以内」などに延長することが出来ます。
これをするためには定款の変更と税務署などへの手続きが必要です。
また後述しますが、納付期限の注意点(申告期限を延長しても納付期限は2カ月以内のままと言う注意点)もありますので、慎重に検討してください。
法人税の納付期限とは?
通常納付期限は申告期限と同様に「事業年度終了の日(決算日)から2カ月以内」となっています。
つまり、申告と同時に納付をすることになります。
申告期限と納付期限が同じなので通常はあまり問題にはなりません。
しかし法人税には「申告期限の延長の特例」があり、申告期限を延長することが出来ます。
注意点は申告期限を延長した場合でも、納付期限はそのまま(2カ月以内のまま)だと言う点です。
例えば3月決算の場合、通常5月末が申告期限および納付期限となります。
しかし「申告期限の延長の特例」を使い6月末に納付期限を延ばした場合でも、納付期限は5月末のままと言うことです。
つまり申告期限が延長できるので決算処理は余裕を持つことが出来ても、納付はまってくれないのです。
なお申告期限を延長してその期限まで納付しなければ利子税がとられてしまうことになります。
それを避けるためには、納付期限内に概算した金額を納付する「見込納付」をしておくことも出来ます。
法人税の中間納付とは?
法人税の納付を年に1度しかなければ大きな金額を支払わなければならないので、それを緩和するために中間納付と言う制度があります。
これは中間(決算日から6か月たった時点)で納付を行うというものです。
中間納付の場合も、中間から2カ月以内に申告及び納付を行います。
例えば、3月決算の会社であれば6か月後の9月末が中間となりますので、その2カ月後の11月末までに中間申告、中間納税を行うことになります。
中間納付の場合の計算方法は2つあります。「
- 前年の法人税の額の2分の1を中間申告」とする「予定申告」
- 「6カ月間を仮の決算期と考えて仮決算」をして行う中間申告
です。
仮決算を行うより予定申告の場合の方が前年実績を使うだけなので簡単ですが、今期の業績が悪化している場合などには多めの税金を先に払うので資金繰りが厳しくなる可能性があります。
なお中間申告は義務ではないので中間申告を行わない場合もあります。
その場合でも納付は必要ですので、「予定申告の額(前年の2分の1の金額)」を「みなし申告」として納税することになります。
法人税を納付しないとどうなるのか?
法人税は原則、事業年度終了の日(決算日)から2カ月以内に申告、納税しなければなりません。
ではこれを過ぎてしまった場合はどうなるのでしょうか?
例えば決算自体が遅れて申告が出来なかったり、決算は出来たとしても法人税の支払いを資金の関係上遅れてしまったりする場合です。
納付期限を超えた場合は、延滞税がかかりますので、申告・納付を2カ月以内にすることが求められます。
さらに滞納が続く場合は「督促」が行われます。
そしてそれでも滞納が続けば「財産の差し押さえ」などの行政処分が下ることもありますので、気を付けてください。
法人税の経理処理はどうなるのか?
例えば3月決算の会社で11月に500,000円中間納付して、決算になってみたら法人税額が950,000円だった場合の経理処理を見てみましょう。
中間納付時の処理
(借方) 仮払法人税等 500,000 / (貸方) 当座預金 500,000
決算時
(法人税等が950,000円のうちすでに中間納付で500,000円支払っているので、不足分は450,000円となる。支払いをするまでは未払法人税等に計上する。)
(借方) 法人税等 950,000 / (貸方) 仮払法人税等 500,000
(貸方) 未払法人税等 450,000
納付時
(未払い分を当座預金より納付する。)
(借方)未払法人税等 450,000 /(貸方)当座預金 450,000
これらに注意して仕訳を行ってみてください。
まとめ
法人税の計算方法自体はそれほど複雑ではなく単純です。
基本は、
【法人税=課税所得額×法人税の税率】
です。
また
【課税所得額=益金-損金】
となります。
このように概念上では単純な式で表すことが出来ますが、実務上では「そもそも益金や損金はどのようなものが入るのか?」や「決算(課税所得額を求めるまでの過程)をするのが大変であり、複雑である」など単純には行きません。
また納付の方法や期限もしっかりと決まっており、遅れれば延滞税が課せられたり、行政処分を受けたりする可能性もあるので注意が必要です。
このように会社を設立したり、個人事業主から法人化したりすることで、法人税を納めることになるので、法人の経営者になるのであれば法人税等についてある程度は知っておくべきなのです。
さらに法人税自体がどのくらいになるかと言う点にも気を配ることが経営であるとも言えます。
法人税は課税所得額が基本として計算をしていきますが、これは会計上で言えば利益に相当する部分です。
つまり、利益を上げることが経営者にとって重要なことであるように、法人税等を納めることも重要なことになります。
逆の見方をすれば、法人税等をコントロールしようとするならば、課税所得額(≒利益)をコントロールすることにもなります。
これが行き過ぎれば粉飾決算にもなりかねません。
また、課税所得額が少なすぎたり、赤字になったりすれば法人税等は少なくて済むかもしれませんが、それでは経営が続けることが出来ないかもしれません。
このように法人の経営をしていくことには、法人税等だけを気にしていればよいわけではないですが、やはり法人税等がどのようになっているのかなどが重要な事項となるのです。
ぜひ、これから法人を設立していく(法人化していく)方は、法人税等の概念的なことを知るだけでなく、自社の法人税等についての考えてみてください。