今すぐ決定!資金繰りに役立つソフト選びの秘訣と活用方法
経営者にとって資金繰りは利益を獲得するよりも重要なことです。なぜなら、赤字が続いても会社は続けることができますが、資金繰りが行き詰ると会社はつぶれてしまうからです。経営が悪化した企業で保有資金の額が報じられるのはこのためです。
仮に資金に余裕がある会社であっても、事業拡張のために設備投資や資金運用をしていますし、本業が好調であればあるほど運転資金が増えていきます。よって、ほとんどの会社では資金繰り表等により資金を管理する必要があります。
この資金繰り表はエクセルなどの表計算ソフトを利用しているところが多いですが、会計システムとの連携を考慮すると市販ソフトを利用することは有効です。近年、クラウド型の会計ソフトの利用が広まり、モジュールである資金繰りソフトの機能も充実してきました。
以降、最新の製品動向と共に資金繰りソフトの選定基準を解説していきます。
資金繰り表に必要な機能と内容
資金繰り表の目的は、将来の資金の出入りと必要な資金(不足分)を明らかにして、今後の調達計画に役立てることです。
似た計算書類にキャッシュフロー計算書がありますが、資金繰り表では将来の予測を伴うもので、過去の結果情報だけを対象にするキャッシュフロー計算書とは求める機能も異なります。
このように決まった様式やルールはなく、将来の予定や予測を行うものなので、求める機能もより難しくなります。
ここでは各社共通の要件に絞って、必要な機能をあげてみます。
必要な機能(共通のもの)
- 決算書など帳簿類の数字と整合している、日々の取引情報を容易に更新できる
当たり前ではあるが、決算書や伝票などの経理関係のデータと一致していることが大原則である
よって、元となる帳票類との連携や取り込みを機械的に行いたい(データの再入力は避けたい) - 費目単位、取引先別、案件別に管理ができる
個別に見込みを判断して、対策を考えることが目的なので詳細情報が必要となる
たとえば、担当者毎に詳細を確認したり対策を考えたりすることに繋げる
数字をまとめたものや、合計だけでは不十分 - 日単位で管理できる
入金、出金の最小単位は日単位(月末だけではない)なので月単位では足りない
たとえば、入金と出金が同じ月内であっても1日違いで資金が不足することもある - 試行錯誤のためのシミュレーションができる
確定情報を入力して表示・出力することに加えて、将来を予測することから入力・修正を繰り返す処理がある
高度な分析は必要としないが、入力データの変更が容易に行えるつくりになっていることが望ましい - 金融機関向けにレポートできるレベルの様式になっている
融資申し込みの際に求められるであろうレポートとしてある程度体裁が整っていること
金融機関が理解しやすい会計分類や将来予測にについての説明のしやすい様式が望ましい
資金繰りソフトの分類と代表的な製品の概要
市販ソフトの利用状況
市場・サービス評価機関である株式会社シード・プランニング(*)による会計ソフトに関する調査結果を紹介します。
URL:http://digitalinfact.com/press150805/
この調査内容で資金繰り表の利用まではわかりませんが、ある程度の動向が読みとれます。
調査結果のポイント:
- クラウド会計ソフトは利便性や低コスト性により、中小企業や個人事業主を中心に急速に普及している。
- クラウド型会計ソフトのシェアは、
- freee
- 弥生会計
- バイブドビッツ
- MFクラウド
の順(以上で8割以上)。
- クラウド型会計ソフトのサービス選定時に重視することは、「簡単であること」と「価格」を重要視している。
本調査におけるクラウド型会計ソフトの定義:
クラウド上で提供されている会計業務管理用ソフトウェアであり、クライアント端末側及びサーバーにソフトウェアをインストールすることなく利用できるサービス。
資金繰りソフトの分類
市販ソフトを大きく分類するとインストール型とクラウド型があります。以下特徴についてみてみましょう。
このように見比べますと、クラウド型の方がメリットが多いように見えますが、自社の会計システムの環境によってはその連携面を考慮してインストール型を選択することもあり得るでしょう。
たとえば、会計業務を特定の業務パッケージで構築している場合は、インストール型の方が相性が良いかもしれません。
代表的な製品の比較(弥生会計、Free、MFクラウド)
以下の表で具体的な製品を比較してみます。
市販ソフトは市場で実際に使われて、ユーザーからの要望を踏まえて成熟していくという性質があるので、現時点で導入実績の多いものを比較対象にします。なお、バイブドビッツは「資金繰り表」に対応していないため除きました。
注)Webサイトの情報を基に作成、必要に応じ各社へ直接確認してください
■比較ポイント
- インストール型かクラウド型については前述の通り
- 操作が簡単かどうかは実際に使ってみないと何とも言えないが、クラウド型は「すぐに使える」ことを売りにしている
- 会計業務全般の個別業務サポートまでを期待するなら弥生会計が良さそう
- 価格面ではクラウド型は安価であるが、長く使う前提であれば差は縮ってくる
- 資金繰りシミュレーションを深く行いたい場合は弥生会計が良さそう
資金繰りソフトの選定基準と導入にあたっての考慮点
資金繰りソフトの選定基準
前章では具体的な資金繰りソフトの比較を行いましたが、選定に当たっては自社の環境や望む要件によって異なり、何を重視するかによって選ぶソフトは変わってきます。優先順位とともに必須要件と望ましい要件に分けて考える方がよいでしょう。
たとえば、先の3製品の例では、
会計業務全般の個別業務サポートを望むなら… ⇒ 弥生会計が有力候補
初期投資を抑えてすぐに利用したい場合は… ⇒ freeeかMFクラウドが有力候補
になるでしょう。また、多くの製品で無料期間が設けられていますので、試行してから正式に選定することもできます。
繰り返しになりますが、共通の要件は以下の3項目ではないか考えます。
- 決算書など帳簿類の数字と整合している、日々の取引情報を容易に更新できる
→整合させるのが容易→たとえば自動取り込みができる - 費目単位、取引先別、案件別に管理ができる
→画面や帳票の様式が対応している、要求するレベルの細かさである - 日単位で管理できる
→画面や帳票の様式が対応している、要求するレベルの細かさである
これら以外については、個別の環境や要求・要望の優先度により選定することになります。
たとえば、要求する様式の帳票に対応できなければ、他の条件が最高であっても採用できないでしょうし、他と比べて評価が低くても、担当する会計士が利用していて(推薦されたら)有益かもしれません。
つまりは、事前に必須要件とその他要件を洗い出し、順位付けをしておくことが重要です。
市販ソフトの限界とエクセル活用
これまで資金繰りソフトをみてきましたが、実際にはエクセルを使っているところがほとんどで有効活用されていないようです。
その理由は大きく2つあるのではと考えられます。
機能面での不足・限界
- 決算書などの計算書類が発生主義の原則を基に利益に着目しているのに対して、資金繰り表は現実の資金の出入りのタイミ
ングを基にしている。よって、会計データをそのまま連携することが難しい。 - パッケージソフトでは細かな個別の要求に応えることが難しい。
将来の予測を行う際には案件毎の事情が様々なので、ルールを個別に設定することは現実的でない。
(たとえば、こんなケースは入金が遅れそうだとかはルール化できない?)
つまり、システム化で得られるメリットには限界がある。
必要性が低い
- そもそも作成義務がない書類なので、あえて(市販ソフトに)投資するという動機が薄い。さらに共通ルールもない。
しかしながら、エクセルによる資金繰り表は、既存の会計システム(伝票、帳簿類)からデータを再入力(転送)する必要があり、その手間や正確性の観点から検証作業などに大きな工数がかかっています。
また、一度作ったら終わりではなく、日々継続して運用すべきものなので、法改正に対応したり常にメンテナンスする必要があります。
そのため一定した売り上げが発生する場合は、ソフトを導入することをおすすめします。
資金繰り表の見方と活用法
分析方法と見るべきポイント
資金繰り表は作って終わりではなく、日常的に内容を更新し、場合によっては資金調達の対策を考える材料にします。
経常収支はプラスになっているか
経常収支=経常収入-経常支出=(売上、売掛金、受取手形等の入金)-(仕入れ、買掛金、支払手形、人件費、諸経費、利息等)
まず、定常的な営業収入と営業支出を合わせた経常的な収支を把握しておきます。短期的には問題が生じていても、年間レベルでこれがプラスになっていないと本業に関わる資金の流れに問題があるということで、経営状態が良いとは言えません。
借入金返済の原資にもなりますので、これがマイナスであると借入金がどんどん増えてしまいます。
現預金残高は運転資金の何か月分か、月次売上の入金時期を踏まえて見てみる
入金が遅れることを加味すると月次売上の1か月分では不安かも
借入金返済が営業収支を上回っていないか
その他のチェックポイント
- 売掛金の相手先の資金繰りは大丈夫か?
- 与信審査は適正に行われているか?
- 在庫水準は適正か?、不良在庫はどの程度か?
- 設備資金は基本的に長期借り入れでまかなわれているか?
資金繰り表を基にした対策例
以下は代表的な資金繰りの改善策です。
- 売掛金回収条件の見直し
- 買掛金支払い条件の見直し
- 棚卸資産圧縮、在庫管理の厳格化
- 経費の見直し
- 借入金返済時期の延長
- 人件費圧縮による固定費削減(正社員から業務委託に切り替え)
- 納税猶予、分割納付の検討
まとめ
資金繰り表の目的は、将来の資金の出入りと必要な資金(不足分)を明らかにして、今後の調達計画に役立てること
過去の結果情報だけを対象にするキャッシュフロー計算書とは求める機能も異なる
資金繰り表に必要な機能
- 決算書など帳簿類の数字と整合している、日々の取引情報を容易に更新できる
- 費目単位、取引先別、案件別に管理ができる
- 日単位で管理できる
- 試行錯誤のためのシミュレーションができる
- 金融機関向けにレポートできるレベルの様式になっている
資金繰りソフトにはインストール型とクラウド型がある
- クラウド会計ソフトは利便性や低コスト性により急速に普及している。
- クラウド型会計ソフトのシェアは、
- freee
- 弥生会計
- バイブドビッツ
- MFクラウド
で8割以上
- クラウド型は「すぐに使える」ことを売りにしている
資金繰りソフトの比較ポイント
- インストール型かクラウド型により特徴が異なる
- 会計業務全般の個別業務サポートまでを期待するならインストール型が良さそう
- 価格面ではクラウド型はインストール型に比べて安価だが、長く使うのであれば差は縮ってくる
資金繰りソフトの選定基準と導入にあたっての考慮点
- 選定基準は自社の環境や望む要件、優先順位によって異なる
- 事前に必須要件とその他要件を洗い出し、順位付けをしておくことが重要
- エクセルによる資金繰り表は広く活用されているが、データ入力やその検証作業などに大きな工数がかかっている
資金繰り表は日常的に内容を更新し、資金調達の対策を考える材料にする
- まず見るべきポイントは経常収支がプラスになっているかどうか
経常収支=経常収入-経常支出=(売上、売掛金、受取手形等の入金)-(仕入れ、買掛金、支払手形、人件費、諸経費、利息等)