下請法を知る!1分でわかる資本金の該当条件とリスク対処法
下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)とは、下請取引において親事業者が優位な立場を利用して不公正な取引を行わないよう、昭和31年に立法化された法律です。
対象となるのは、親事業者、下請事業者双方の資本金の額、及び取引の種類によって決められています。
しかし、対象となる条件が少し複雑なので理解するのは簡単ではありません。
そのため、ここでは下請法が適用となる資本金とその他の条件を簡単にご理解頂けるよう整理しました。
また、対象となる場合の義務、禁止行為、および違反した場合の罰則規定もわかりやすく解説します。さらに、親事業者、下請事業者共に起こりうるリスクに対してどう対処すべきかまで詳しくご紹介します。
読み終えたときには、下請法とどう向き合うべきなのか全て理解できます。
ぜひ、自社の取引の参考にしてください。
Contents
下請法の対象となる資本金区分とは?
まずは該当するかを確認しましょう。
対象とする取引の種類
資本金区分の例外-トンネル会社規制
事業者が直接、下請事業者に委託すれば下請法の対象となる場合、資本金3億円以下の子会社を通じて委託取引を行うケースにおいて、取引実態が一定の要件を満たせば、その子会社は親事業者とみなされて下請法の適用を受けます。
(引用元:公正取引委員会・中小企業庁 2015年11月 「下請代金支払遅延等防止法ガイドブック ポイント解説下請法」 )
下請法の対象となる4つの取引とは?
物品の製造委託
物品を販売し、または製造を請け負っている事業者が
- 規格
- 品質
- 形状
- デザイン
- ブランド
などを指定して、他の事業者に物品の製造や加工などを委託することをいいます。
ここでいう「物品」と は動産のことを意味しており、家屋などの建築物は対象に含まれません。 また、自社で使用・消費する物品をつくる場合も含まれます。
修理委託
物品の修理を請け負っている事業者がその修理を他の事業者に委託したり、自社で使用する物品を自社で修理している場合に、その修理の一部を他の事業者に委託することなどをいいます。
情報成果物作成委託
- ソフトウェア
- 映像コンテンツ(影像や音声、音響など)
- 各種デザイン(文字、図形、記号など)
など、情報成果物の提供や作成を行う事業者が、他の事業者にその情報成果物の作成作業を委託することをいいます。
物品の付属品・内蔵部品、物品の設計・デザインに係わる作成物全般を含んでいます。 自社で使用する情報成果物の場合も含まれます。
役務提供委託
運送やビルメンテナンスをはじめ、各種サービスの提供を行う事業者が、請け負った役務の提供を他の事業者に委託することをいいます。
ただし、建設業を営む事業者が請け負う建設工事は役務には含まれません。
(注)
- 建設業法において本法と類似の規定があり、下請事業者の保護が別途図られてます。
- 役務提供委託として規制される役務とは、委託事業者が他者に提供する役務のことであり、委託事業者が自ら利用する役務は含まれません。 例えば、荷主から貨物運送の委託のみを請け負っており、貨物の梱包作業の委託は請け負っていないが、自らの運送作業に必要なために梱包作業を他の事業者に委託に出す場合、この梱包作業を他の事業者に委託する部分については下請法上の「役務提供委託」には該当しません。
親事業者の4つの義務とは?
書面の交付の義務
口頭発注による様々なトラブルを未然に防止するため、親事業者は発注に当たって、発注内容を明確に記載した書面を交付しなければなりません。
記載すべき事項は、次のとおり法令で具体的に定めてあり、原則として該当するものをすべて決定した上で記載する必要があります。
- 親事業者及び下請事業者の名称(番号、記号等による記載も可)
- 製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
- 下請事業者の給付の内容
- 下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合は役務が提供される期日又は期間)
- 下請事業者の給付を受領する場所
- 下請事業者の給付の内容について検査をする場合は検査を完了する期日
- 下請代金の額(算定方法による記載も可)
- 下請代金の支払期日
- 手形を交付する場合は、手形の金額(支払比率でも可)及び手形の満期
- 一括決済方式で支払う場合は、金融機関名、貸付け又は支払可能額、親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払う期日
- 電子記録債権で支払う場合は、電子記録債権の額及び電子記録債権の満期日
- 原材料等を有償支給する場合は、品名、数量、対価、引渡しの期日、決済期日及び決済方法
ただし、下請法では発注書面の様式は定めていないので、取引内容に応じて適切な発注書面を作成すれば問題ありません。
この規定に違反すれば、50万円以下の罰金に処せられます。
書類の作成・保存の義務
下請取引が完了した場合、親事業者は、給付内容、下請代金の金額など、取引に関する記録を書類として作成し、2年間保存することが義務付けられています。
これは、違反行為に対する親事業者の注意を喚起するとともに、公正取引委員会や中小企業庁による迅速、正確な調査や検査に役立つことを目的としています。
記録すべき事項は次のとおりです。
- 下請事業者の名称(番号記、号等による記載も可)
- 製造委託、修理委託、情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
- 下請事業者の給付の内容
- 下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合は役務が提供される期日・期間)
- 下請事業者から受領した給付の内容及び給付を受領した日(役務提供委託の場合は役務が提供された日・期間)
- 下請事業者の給付の内容について検査をした場合は検査を完了した日、検査の結果及び検査に合格しなかった給付の取扱い
- 下請事業者の給付の内容について変更又はやり直しをさせた場合は内容及び理由
- 下請代金の額(算定方法による記載も可)
- 下請代金の支払期日
- 下請代金の額に変更があった場合は増減額及び理由
- 支払った下請代金の額、支払った日及び支払手段
- 下請代金の支払につき手形を交付した場合は手形の金額、手形を交付した日及び手形の満期
- 一括決済方式で支払うこととした場合は、金融機関から貸付け又は支払を受けることができることとした額及び期間の始期並びに親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払った日
- 電子記録債権で支払うこととした場合は、電子記録債権の額、下請事業者が下請代金の支払を受けることができることとした期間の始期及び電子記録債権の満期日
- 原材料等を有償支給した場合は、品名、数量、対価、引渡しの日、決済をした日及び決済方法
- 下請代金の一部を支払い又は原材料等の対価を控除した場合はその後の下請代金の残額
- 遅延利息を支払った場合は遅延利息の額及び遅延利息を支払った日
支払期日を定める義務
親事業者は検査をするかどうかを問わず、発注した物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で、下請代金の支払期日を定めなくてはなりません。
支払期日を定めなかった場合などには次のように支払期日が法定されます。
- 当事者間で支払期日を定めなかったときは物品等を実際に受領した日
- 当事者間で合意された取決めがあっても、物品等を受領した日から起算して60日を超えて定めたときは、受領した日から起算して60日を経過した日の前日
遅延利息の支払いの義務
親事業者が支払期日までに下請代金を支払わなかった場合、受領した日から起算して60日を経過した日から実際に支払が行われる日までの期間、その日数に応じ下請事業者に対して遅延利息(年率14.6%)を支払う義務があります。
この遅延利息当事は、民法、商法や当事者間で合意して決めた利率に優先して適用されます。当事者間でこの遅延利息と異なる約定利率(10%など)を定めていても、その約定利率は無効です。
親事業者に課している11の禁止・違反行為とは?
(1)受領拒否の禁止
下請事業者に責任がないのに、注文した物品等の受領を拒んではいけません。
(2)下請代金の支払遅延の禁止
物品等を受領した日(または役務が提供された日)から起算して、60日以内に定めた支払期日までに下請代金を全額支払わなければなりません。正当な理由なく納期を延期することも受領拒否になります。
(3)下請代金の減額の禁止
下請事業者に責任がないのに、発注時に定められた金額から一定額を減じて支払うことを禁止しています。
- 値引き
- 協賛金
- 歩引き
等の減額の名目、方法、金額の多少を問わず、また下請事業者との合意があっても、下請法違反 となります。平成16年度以降勧告・公表された事件は、ほとんど減額に該当するものであり、特に対応に注意する必要があります。
(4)返品の禁止
受領した物に瑕疵があるなど明らかに下請事業者に責任がある場合などを除いて、既に受け取った給付の目的物を返品してはいけません。
(5)買いたたきの禁止
下請代金の額を決定するときに、発注した内容と同種又は類似の給付の内容に対して、通常支払われる対価に比べて著しく低い額を不当に定めてはいけません。
(注)比較される「通常支払われる対価」とは何か?
- 同じような取引の給付の内容(又は役務の提供)について、その下請事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価のことをいいます。
- 通常の対価の把握が困難な場合は、例えば、その給付が従前の給付と同種又は類似のものである場合には、従前の給付に係る単価で計算された対価を通常支払われる対価として取り扱います。
(6)購入・利用強制の禁止
正当な理由がないのに、親事業者が指定する物品、役務などを強制して購入、利用させてはいけません。
(7)報復措置の禁止
下請事業者が親事業者の下請法違反行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由として、その下請事業者に対して取引数量の削減や取引停止等の不利益な取扱いをしてはいけません。
(8)有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止
有償支給する原材料等で下請事業者が物品の製造等を行なっている場合に、下請事業者に責任がないのに、その原材料等が使用された物品の下請代金の支払日より早く、支給した原材料等の対価を支払わせたり、下請代金の額から控除したりしてはいけません。
(9)割引困難な手形の交付の禁止
下請代金を手形で支払う際、一般の金融機関で割引を受けることが困難な手形を交付してはいけません。(割引困難な手形とは、繊維業は90日、その他の業種は120日を超える長期の手形)
(10)不当な経済上の利益の提供要請の禁止
自社のために、下請事業者に現金やサービスその他の経済上の利益を提供させ、下請事業者の利益を不当に害してはいけません。経済上の利益とは協賛金や従業員の派遣などです。
(11)不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止
下請事業者に責任がないのに、費用を負担せずに、発注の取消しや内容変更、やり直しをさせ、下請事業者の利益を不当に害してはいけません。
給付内容を変更した場合は、その内容を記載して保存する必要があります。
以上、通常通り誠実な取引を心掛けていれば当然と思われる事柄のようです。
下請法に違反した場合の罰則規定とは?
下請事業者からの申立てや公正取引委員会が毎年行う書面調査により、下請法違反の疑いがある場合、公正取引委員会は、親事業者に対する個別の調査及び検査を実施することになります。
その結果、公正取引員会が親事業者の違反を認めた場合には、親事業者に対し、以下の措置がとられます。
- 改善を求める勧告を行った上、公表する
- 違反行為の概要等を記載した書面を交付し、指導を行う
- 違反行為をした者(及び会社)に対して、最高50万円の罰金を科す(発注書面の交付、書類の作成・保存義務違反、虚偽報告、立入検査拒否・妨害などの場合)
(勧告・公表)
公正取引委員会は、親事業者が下請法に違反した場合、それを取り止めて原状回復させること(減額分や遅延利息の支払い等)を求めるとともに、再発防止などの措置を実施するよう、勧告・公表(会社名、違反事実の概要)を行っています。
勧告に至らない場合も、親事業者に対し改善を強く求める指導を行い、下請法の遵守を促しています。
また、中小企業庁長官は、違反親事業者に対して行政指導を行うとともに、公正取引委員会にに通知し、勧告を行うよう求めます。
最近の勧告・警告、及び相談事例
平成26年度の状況(公正取引委員会の公表概要)
- 勧告;7件(全て製造委託)
- 指導:5,461件(昭和31年の下請法施行以降過去最多)
- 違反行為類型は、下請代金の減額が6件、返品が2件、買いたたきが1件
- 実体規定違反件数が前年度の2,250件から約2倍の4,529件に増加
- 特に「買いたたき」が86件から8倍を超える増加率で735件
- 支払遅延は1,488件から約2倍の2,843件と大きく増加
- 下請代金の減額分の返還など下請事業者が被った不利益の原状回復:該当者は親事業者209名、下請事業者4,142名、総額8億7120万円分を支払った
勧告・警告事例
- 下請事業者と十分協議することな く、自社の目標額を押し付けて下請代金の額を定めていた。
- 一方的に代金を指定するいわゆる指値により、通常支払われる対価より低い金額で下請代金を定めていた。
- コスト削減を図るため下請事業者に対して単価の引下げを要請し、引下げに応じない下請事業者に対し、下請代金から「協力費」と称して一定額を差し引くことにより下請代金の額を減額した。
- 顧客からの原価低減要請等に対応するため、下請事業者に対し部品の原価低減を要請し、それぞれの下請事業者との間で協力を求める額を取り決め下請代金の額を減額した。
- 「製品を安値で受注した」又は「販売拡大のために協力して欲しい」などの理由で、あらかじめ定められた下請代金から一定の割合又はー定額を減額した。
- 販売拡大と新規販売ルートの獲得を目的としたキャンペーンの実施に際し、下請事業者に対して総額はそのままにして、納入数量を増加させることにより下請代金を減額した。
- 下請事業者との間に単価の引下げについて合意が成立し単価改定されたが、その合意前に既に発注さ れているものにまで新単価を遡及して適用した。
- 自社の社員のためのレクリエーションの実施に当たり、下請事業者に対し協賛金の提供を要請し、徴収していた。
- 手形払を下請事業者の希望により一時的に現金払にした場合に、その事務手数料として、下請代金の額から自社の短期調達金利相当額を超える額を減額した。
- 下請事業者と合意することなく、下請代金を銀行口座へ振り込む際の手数料を下請事業者に負担させた。
相談事例
平成26年に寄せられた相談事例の分類
相談事例の分類別推移
平成26年に寄せられた相談の業種別分類
出典)公益財団法人 全国中小企業取引振興協会 下請かけこみ寺Webサイト https://www.zenkyo.or.jp/kakekomi/
親事業者の対策例と下請事業者の対処方法例
親事業者による違反行為の背景は様々です。事情はどうあれ「紛争」状態になる前に未然に防げるように心がけたいものです。
日頃から話し合いのできる環境を作っておき、まずは親事業者と下請事業者双方で率直に協議することが第一です。
その上で、解決が難しいという状況になれば行政機関(「下請かけこみ寺」など)に相談してみてください。
親事業者の対策例
法令上、加害者?となり得る親事業者の立場としては、違反しないよう努めることになります。
まずは、法令の内容を理解し、担当者個人に任せず組織的にチェックできる体制を整えることです。できれば定期的に下請事業者に対してヒアリングを行い、問題があれば協議できる関係作りを構築しておきましょう。
下請事業者の対処方法例
親事業者と協議しても解決が難しいという状況になれば行政機関(「下請かけこみ寺(*)」)に相談してみてください。
(*)下請取引の適正化を推進することを目的として、経済産業省・中小企業庁が全国48ヶ所に設置
無料相談
中小企業の取引上の悩みの相談に企業間取引や下請代金法などに詳しい相談員が無料で相談に応じてくれます。必要に応じて相談者の近くの弁護士に無料で相談を行うことができます。
(相談事例)
- 支払日を過ぎても代金を支払ってくれない
- 原材料が高騰しているにも関わらず、単価引き上げに応じてくれない
- 「歩引き」と称して、代金から一定額を差し引かれた
- お客さんからキャンセルされたので部品が必要なくなったと言って返品された
- 発注元から棚卸し作業を手伝うよう要請された
調停による紛争解決
中小企業が抱える企業間取引に係る紛争を裁判よりも迅速、簡便に解決するための調停(裁判外紛争解決-ADR手続)を無料で行ってくれます。
(調停-ADRの主なメリット)
- 紛争当事者間の和解の調停を行ってくれる
- 裁判と異なり非公開で行われるため、当事者以外には秘密が守られる
- 当事者が合意すれば、自由に調停場所、時間等を決めることができる
中小企業庁への通報
以上の対応でも解決しない場合には中小企業庁への通報を検討することになります。
まとめ
下請法が適用となる資本金とその他の条件をご理解頂けたでしょうか。
全体で判断すると難しく感じますが、1つ1つの条件に該当するかどうかをチェックしていけば簡単にご理解頂けるかと思います。
対象となる場合の義務、禁止行為、および違反した場合の罰則規定などがありますので、該当する場合は注意をしなくてはいけません。
下請法との向き合い方を今一度ご確認頂き、自社の取引のご参考にしてください!